僕が大好きな日本画の掛軸を見ているよう〜Mr.Children『花 ~Memento-Mori ~』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載

連載・コラム

[2019/5/21 12:00]

音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。


第42回:僕が大好きな日本画の掛軸を見ているよう


今回ご紹介するのはこちら。

Mr.Children『花 ~Memento-Mori ~』(1996年)

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今年とうとう35歳になってしまったファラオさん。何とボン・ジョヴィのキャリアと同じである。ただでさえ老人臭い趣向をもっているのに、最近どんどん若い人の常識に追いつけなくなってきているイッツマイライフ……。

しかし音楽界的にみれば、最もCDが売れた時代である1990年代のJ-POPがまさに世代ど真ん中。あの時代は小室ファミリーやビーイング系などの巨大なカルチャーがヒットチャートを席巻し、皆が音楽に興味があり皆が音楽にしっかりと向き合って聴いていたように思うので、今になってはいい時代を体験できていたのだなと思ったりもする。

そして1990年代のJ-POPを語るうえで絶対に避けては通れないひとつの偉大なバンドがいる。

スタドレことMr.Childrenである(一部地域ではミスチルとも呼ばれる)。1992年にデビューし、耳に馴染みやすいメロディと深みのある歌詞、さらにボーカル・桜井和寿の瞬時に彼とわかる個性的な声で爆発的なヒットを連発し、「ロック」と「ポップ」を最もうまく融合させ成功したバンドのひとつである。

B'zやサザンオールスターズと同様、あまりにも売れすぎたバンドの宿命として、ツウを気取りたがる頑固なロックファンからは非難されることも少なくないが、桜井和寿という人はその作曲センスやボーカリストとしての実力的にみても間違いなく天才と言うにふさわしい人だと僕は思う。

1996年はスタドレの印象があまりにも強い年だった。『名もなき詩』というあまりにも完璧すぎる名曲があったからだ。事実この曲はバカ売れし、確かこの年のシングル曲では最高の売り上げを叩き出していた気がする。そんな『名もなき詩』のインパクトに隠れがちだが、この年にもうひとつ素晴らしい名曲を彼らは生み出している。

それが今回取り上げる曲『花 ~Memento-Mori ~』である。当時はまだ8センチ盤の時代で、しかもこの曲はカップリング曲もなく1曲のみの収録だったため値段も通常の半額(500円)というお買い得商品だった。それは当時中学生の僕にとっては手が出しやすく、カップリングなんて言ってもオマケ程度の曲もJ-POPのなかには多かったので、それならこの曲みたいに1曲だけで500円のほうがいいよねーなんて空想の友達とよくしゃべっていた(彼はいい奴だった)。

ポジティブな力強さを感じる『名もなき詩』とは反対に暗く寂しげな曲調。ジャケットも表紙、裏表紙含めて荒涼とした大地をシンプルに写しているだけなのだが、それがまさにこの曲から浮かび上がる心象風景をそのまま映し出してくれている。この空気感が伝わってくるような情景と8センチ盤という特性上、僕が大好きな日本画の掛軸を見ているようでもあり、それも含めて好きなジャケットである。

『花 ~Memento-Mori ~』の売り上げは『名もなき詩』には及ばなかったものの、それでもミリオンセラーには達していたと思う。1990年代という時代の景気のよさもあっただろうが、バンドの勢いと才能が正統に評価されていたということだろう。

華やかなポップスの世界のなかで異様なまでに暗い曲だが、だからこそ際立って輝いてもみえる。つまりこれもまた華なのである。

8センチ盤の魅力、それは持ちやすいこと!

平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)

ひらい“ふぁらお”ひかる●1984年3月21日生まれ、神奈川県出身。2008年に新道竜巳とのお笑いコンビ“馬鹿よ貴方は”を結成。数々のテレビ/ラジオ番組に出演するほか、『THEMANZAI2014』『M-1グランプリ2015』の決勝進出で大きな注目を集める。個人では俳優やナレーターとしても活躍。音楽・映画観賞や古代エジプト、恐竜やサンリオなど幅広い趣味を持つ。