派手ではないが奥は深い〜コート・イン・ジ・アクト『ヒート・オブ・エモーション』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
[2019/8/14 12:00]
ただ確かに表面的には地味に見えるが、その実力は確かであり、しっかりとこのアルバムに向き合って聴いてみれば非常に味わい深い名盤であることに気づくはずだ。B級感漂う音作りが独特の陰鬱さを引き立たせているし、ミドルテンポ主体の曲が多いのも哀愁感が持ち味ゆえ。また大仰でなくても美しく心地の良いメロディは飽きずに長く聴き込める要素になっているし、個性的なスタープレイヤーがいなくてもバンドとしてのバランスはいい。要するに飛びぬけた個性がなくてもさまざまな要素がバランスよく組み合わさることでこれほどの名盤が生み出せるといういい事例だろう。
ジャケットもまたB級感のある、バンドの音楽性を物語るような地味なデザインである。しかし僕はこの地味なジャケットに漂う独特の哀愁感、幻想性になぜか惹かれるものがある。ちょっと形容するのは難しいが、ジョルジュ・デ・キリコの形而上絵画に似た感覚を覚えるのだ。
バンドはこのアルバムのあとに同じ名前のグループが存在していることから、バンド名を“ギルド・オブ・エイジズ”に変更し活動を続けている。派手ではないが奥は深い。落語で言うなら粋な江戸の人情落語。少なくとも僕のなかでは唯一無二の地位を確立しているバンドである。