地味なのに印象的という珍しいパターン〜ジュディ・シル『ハート・フード』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載

連載・コラム

[2019/11/6 12:00]

音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。


第66回:地味なのに印象的という珍しいパターン


今回ご紹介するのはこちら。

ジュディ・シル『ハート・フード』(1973年)

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何か名盤を発掘しよう、という気持ちがなければ出会うこともなかったかもしれないアーティスト。単純に古いというのもあるが、何しろ世に残したアルバムはたったの2枚。それも決して商業的な成功には至っていないという、まさに時代に埋もれた幻のアーティストということになる。

しかし今こうして僕が彼女の作品を発掘することができたのは、大衆に認められずとも彼女の音楽を後世に遺していきたいと強く思うファンが少なからずいるからであり、僕が手に入れたワーナーミュージックの『名盤探検隊』シリーズのように彼女の遺した2枚の名盤を彼らのような人たちが復刻、再発してくれているおかげである。事実、彼女の音楽は本来ならもっともっと認められていい素晴らしいもので、アコースティックギターやピアノの音色に乗せた優しい歌声にバッハなどのクラシック音楽から影響を受けたストリングスが絡み合い、さらにキリスト教的な歌詞の内容も相まって単なるフォークミュージックとは一線を画す、神聖さすら感じる音楽となっている。

しかし、彼女の私生活のほうはというとその穏やかな音楽からは想像もつかないほど荒れたもので、複雑な家庭環境のせいでもあっただろうが、ドラッグや犯罪行為に手を染め、服役経験もあるという、まるでキース・リチャーズのような生活を送っていたようだ。その結果彼女はドラッグの過剰摂取により1979年に35歳の若さでこの世を去っている。もしもその才能に見合った評価を活動期間中に得てさえいればそうはならなかったかもしれないと思うと、ジャンルは違えど同じエンターテインメントの世界に生きる者として改めて考えさせられるところがある……。(次ページへ)