生命が宿っているかのように“歌う”名演の数々~葉加瀬太郎『The Best Track』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
『The Best Track』は彼にとっての初のベストアルバム。こうして聴くとベストとはいえ、いかに彼が素晴らしい曲を多く生み出してきたかがわかる。セリーヌ・ディオンの『To Love You More』のバイオリンバージョンは原曲以上にメロディの美しさが際立っているし、『Etupirka』と同じ路線の『Angel In The Sky』や『Dolce Vita』、また『情熱大陸』と同じ路線のアップテンポな『Breeze Of Glory』やボーカルにバーシアを迎えた『So Nice(SUMMER SAMBA)』などはまさに心揺さぶられる感動的な名曲である。
そしてそれは単にメロディがいいというだけではない。彼の奏でるバイオリンは技術云々を通り越してまるでそれそのものに生命が宿っているかのようによく歌う。その奥深い感情表現がいいメロディにさらに躍動感を与え、聴き手の心に真っ直ぐに届いてくるのだと思う。そしてその感情表現が彼自身の体の動きにも表れ、髪を振り乱しながら激しく演奏するスタイルに発展し、そしてものまね芸人の餌食となるという食物連鎖のサイクルが生まれているのである(これぞ自然の営み)。
ジャケットはちょっとした贈り物のようなデザインで、ひまわりの花が添えてある。なんとも心和む可愛らしいジャケットだが、このアルバムの発売より少し前の1999年に彼は奥さんでありタレントの高田万由子さんとの間に長女を授かっている。その長女の名前が向日葵(ひまり)さんというらしく、勝手な想像だがこのベストアルバムは父親であり音楽家でもある自分を知ってもらうためにまだ幼い向日葵さんへ向けた彼なりのギフトだったのではないかと思う。ちなみに彼はそれ以降に『ひまわり』という曲も作っており、まさに1999年以降の彼のキャリアのなかでひまわりはひとつの大きなテーマとなっていたのだろう。
バラエティ番組やものまねでしか彼を知らない人は彼のことを単なるはっちゃけコミックバイオリニストだと思っているかもしれないが、一度でも彼の音楽としっかり向き合えば彼がどれだけ美しい音楽を生み出しているかわかるはずである。