またしてもハードロック界期待の新人は儚く消えてしまった~ロードスター『グランド・ホテル』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第87回:またしてもハードロック界期待の新人は儚く消えてしまった
今回ご紹介するのはこちら。
ロードスター『グランド・ホテル』(2006年)
1990年代以降、ハードロック、ヘヴィメタルは過去のものとして扱われ、いいバンドは多く存在してはいたものの世界的な成功とはほとんど無縁のジャンルとなってしまった。ましてや正統派タイプの音楽性のバンドはなおさらである。それでも時たまそんな現状をぶち壊し、今一度ハードロック/ヘヴィメタルの復権に大きく貢献してくれそうな期待の新人とも言えるバンドがいくらかは登場してきた。今回紹介するイギリスのバンド、ロードスターもデビュー当時まさにそんな期待を背負ったバンドのひとつであった。
しかもその音楽性は正統派も正統派。エアロスミス、ホワイトスネイク、ガンズ・アンド・ローゼズ、レッド・ツェッペリンといったアメリカ、イギリスのさまざまな伝統的ハードロックバンドがもつエッセンスを吸収し、21世紀という表面上の情報重視の個性派が蔓延する時代に清々しいほどオーソドックスなスタイルのハードロックで挑んだのである。それは若さという強力な勢いも乗ることで充分に説得力があった。事実、彼らはこのデビューアルバム発売前はニッケルバックやクイーンズライチなどの大物バンドのサポートも務めていたというのだから、業界での注目度も相当に高かったのだろう。ちなみにこの当時はバンド名を「ハリケーン・パーティ」としていたそうだが、アメリカで実際に起こったハリケーン被害を想像させることから「ロードスター」に変更、デビューに至る。
デビューアルバムとしては確かに今後を期待できるクオリティである。捨て曲なし、とまでは言わないもののレベルは高い。なかでも『ROADSTAR』はイントロとブリッジのゾクゾク感がたまらない最高のロックナンバーである。
ジャケット及びアルバムタイトルは、ツアー中に配布されるスケジュール表に書いてある宿泊先に「GRAND HOTEL」と書いてあるので期待してホテルに向かうと名前とはほど遠い寂れたホテルだった、という経験が元ネタになっているらしい。皮肉混じりのユーモラスな、ロックバンドらしい発想である。ただぱっとジャケットを見て「いいホテルだな」と思ってしまったのは日本人の感覚だからか。ちょっと泊まりたいぞ。
そんな素晴らしい滑り出しを見せたロードスターだが、結局セカンドアルバム発表後に解散してしまう。理由は知らんしその後の動向も知らん。何にせよまたしてもハードロック界期待の新人は儚く消えてしまった。
ただこのアルバムはいまだにちょくちょく引っ張り出して聴きたくなる。現在は中古市場で菓子パン並みに安く買えるのでぜひともどうぞ。