物語のひと幕のような美しい体験をモチーフとした良ジャケット~アングラ『リスボン』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第101回:物語のひと幕のような美しい体験をモチーフとした良ジャケット
今回ご紹介するのはこちら。
アングラ『リスボン』(1998年)
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ブラジルのヘヴィメタルバンドと言えばまずこの名が挙がる。またメロディックスピードメタルと呼ばれるジャンルのなかでも、元祖として君臨するハロウィンと並ぶほどの存在感を誇るバンドである。
『リスボン』は以前この連載でも紹介した彼らのサードアルバム『ファイアワークス』からの先行シングルで全3曲入り。タイトル曲は去年亡くなったアンドレ・マトスがボーカルを務めていた初期の頃の楽曲で、なかなかに人気の高いバラード曲である。
この曲が生まれたきっかけがまた非常にドラマチックで、ポルトガルのリスボンでのライブを終えたアンドレが真夜中に散歩していたところ、丘の上の大聖堂の前で唄を歌っている年老いた物乞いの女性を見つける。彼女はアンドレを横に座らせ、満月の夜空の下で彼に唄を聴かせたのだという。そんな物語のひと幕のような美しい体験がインスピレーションとなりこの曲が生まれたというわけだ。もしかしたらこの曲の作曲者はその女性かもしれない。
2曲目はセカンドアルバム『ホーリー・ランド』に収録されていたバラード『メイク・ビリーヴ』のアコースティックバージョン。原曲も美しい曲だが、個人的にはこちらのほうが好みである。『リスボン』とのカップリングとしても合っている。
3曲目はファーストアルバムのタイトル曲『エンジェルズ・クライ』のデモバージョン。かなりアレンジが異なってるがこれでも全然世に出していいレベルだと思う。総じてやはりアングラというバンドのもつセンスの高さを思い知らされる充実したシングルだ。
肝心のジャケットだが、やはり先述したリスボンでの体験をイメージした写真だろう。エスニックな雰囲気といい楽曲ともよく合っている。CGで煌びやかに飾り立てたそこらのスピードメタルアルバムのジャケットよりもはるかに温もりが感じられていい。シングルだしあまり知られていないかもしれないが、個人的にはアングラのなかでは一番好きなジャケットである。
それにしてもアンドレと同じ体験を芸人がしたとしてもそこからネタは生まれないよなあ。もしアンドレの立場が芸人だったら女性は一発ギャグでも教えてくれただろうか。