こんなにすごいなら何も名前をパクらなくても……~サニー・ボーイ・ウィリアムスン『リアル・フォーク・ブルース』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第111回:こんなにすごいなら何も名前をパクらなくても……
今回ご紹介するのはこちら。
サニー・ボーイ・ウィリアムスン『リアル・フォーク・ブルース』(1965年)
ブルースといえばおもにギターが主役であることが多く、後の世界的な知名度を誇るロックギタリストたちからも尊敬されるほどの素晴らしきプレイヤーが多数存在する。そんななかでブルースにとってもうひとつの重要な楽器であるブルースハープ(ハーモニカ)を武器に、数いるレジェンド的ブルースギタリストを凌ぐ存在にまで駆け上がったのがこのサニー・ボーイ・ウィリアムスンである。
ちなみに、彼より以前に彼とまったく同名のブルースミュージシャンがおり、彼はその芸名をパクってこの名を名乗っている。芸名丸パクリとは逆に新しいなと思うが、モノマネ芸人的流儀で見ると少しは変えるべきだとも思う。例えば……サニー・坊主・ウィリアムスン………サニー・ボーイ・売りますのん……違うか。
しかし結果的に彼のほうが初代サニー・ボーイよりも大きな成功を収めたという理不尽な歴史。あと他人の女もよくパクったらしい。
彼は1900年代初頭に生まれ(この辺ははっきりしていないようだ)1965年に没するが、『リアル・フォーク・ブルース』は彼が亡くなった直後に発売されたレコードである。録音は1960年前後のものがメイン。このタイトルのブルースアルバムはマディ・ウォーターズやハウリン・ウルフといった一流どころに許されたものといった印象があるので、彼がブルース界でどれだけ大きな存在であったかが分かると思う。
ここで聴ける彼のブルースハープの素晴らしさたるや、歌よりもむしろブルースハープのほうが歌心に満ちているくらいである。特に『TRUST MY BABY』のソロは世に存在する多くの素晴らしきギターソロを凌ぐ名演である。同じブルースパープ奏者としてはリトル・ウォルターが有名で、ブルースハープを体の一部のように自在に操る彼もすごいが、サニー・ボーイはもっとすごい。こんなにすごいなら何も名前をパクらなくても充分成功したのではないかと思う。
さてジャケットだが、実は彼はアメリカ以上にヨーロッパで大きな成功を手にしており、彼にとってヨーロッパ滞在は非常に充実した時間だったようで、本気でイギリスを拠点に活動することを考え、アメリカへの帰国を嫌がっていたそうである。そんな彼のトレードマークはジャケットにもあるイギリス産のダービーハット。このダービーハットとブルースハープによってサニー・ボーイ・ウィリアムスンを象徴するという粋なジャケットである。モノクロなことも相まってどこかイギリス的な雰囲気を醸し出しているのは本人の心を受けてのことだろうか。
ブルースハープという小さな楽器の奥深さを存分に教えてくれる最高のミュージシャンであり、名盤である。あとはやはり名前をどうするべきだったか……。
サニー・ヤッホーイ・ウィリアムスン……ファニー・ボーイ・ウィリアムッス……うーん、モジりづらい。