表紙だけでなくブックレットの中も重要なのだ~ドリームタイド『ドリーム・アンド・デリヴァー』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第122回:表紙だけでなくブックレットの中も重要なのだ
今回ご紹介するのはこちら。
ドリームタイド『ドリーム・アンド・デリヴァー』(2008年)
この連載では3度目の登場となるドリームタイド。そして彼らの登場はこれにて最後となるかもしれない。
過去にも説明したとおり、もともとはドイツのメロディアスハードロックバンド、フェア・ウォーニングのギタリストであったヘルゲ・エンゲルケ(化け物みたいな名前!)が、フェア・ウォーニングの活動休止中に始めたバンドで、“メロディの魔術師”の異名をもつヘルゲならではの美しいメロディを押し出した音楽性が高い評価を得ていた。個人的にもフェア・ウォーニングと同等かそれ以上に好きなバンドではあったのだが、2008年のこの『ドリーム・アンド・デリヴァー』以降ぱったりと活動を止めてしまったのだ。つまり本作が現状最新のアルバムであり、このまま最後となる可能性も充分あるというわけである。
しかし僕はドリームタイド再開を強く熱望したい。始めはフェア・ウォーニングの劣化版的な意見も少なくなかった彼らだが、前作同様に今回も明らかにフェア・ウォーニングとは異なる独自の個性を確立している。ヘヴィで男臭いサウンドに哀愁のメロディが乗り、彼らならではの唯一無二の世界観を充分に堪能させてくれるのだ。特に『キング・オブ・スカム』『ストロンガー』『ザ・ヴァウ』は破滅的な名曲である。
そしてジャケットだが、相変わらずアメリカ先住民に伝わる魔除けの道具、ドリームキャッチャーが今回も登場している。しかしエイは何だ? 綺麗な夕陽を撮ろうとしたらたまたま通りかかったのか? エイってそうだっけ? まあこれはこれでいいと思うが、毎度のことながら彼らのアルバムはブックレットの中にこそ素晴らしいデザインがある。今回もまさにそうだ。
この謎の重機の一部やら夕陽の岩窟地帯。こういった独特の哀愁感のある写真が見事なまでに楽曲とマッチしていて、より聴き手をアルバムの世界に深く引き込んでくれるのである。ジャケットは表紙だけでなく中も重要なのだということを彼らのアルバムは毎度教えてくれる(なぜかフェア・ウォーニングにこのセンスはない)。
フェア・ウォーニングほどキャッチーではないが、楽曲のレベルではまったく引けを取っていない。久しぶりにヘルゲにはこちらを動かしてもらいたいものだが、一向にその気配が感じられないのが残念だ。
早く動かさないと重機も錆びちゃうぞ。