ちなみに僕より年下である。笑うっしょ。~ヘイリー・ウェステンラ『ライヴ・フロム・ニュージーランド』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第123回:ちなみに僕より年下である。笑うっしょ。
今回ご紹介するのはこちら。
ヘイリー・ウェステンラ『ライヴ・フロム・ニュージーランド』(2005年)
今回は時たまやってくる反則回。CDではなくDVDのジャケットを紹介させていただこう。ざっくばらんな我が連載。
ヘイリーはニュージーランド出身のクラシック歌手である。まあ厳密にはクラシカルクロスオーバーと呼ばれるジャンルであり、クラシックとポップスの中間のような音楽だ。
音楽一家に生まれ、幼少期に絶対音感があることが発覚してから本格的に彼女も音楽の道に進むことになり、10代前半ですでにCDデビューを果たすというとてつもねえ経歴を誇る。ちなみに僕より年下である。笑うっしょ。
日本で彼女の名前がよく知られるようになったのは、2003年にドラマ『白い巨塔』で彼女の歌う『アメイジング・グレイス』が主題歌として起用されたときである。僕も当時彼女が日本のテレビ番組でその歌声を披露しているのを観て魅了されファンになったひとりだ。
彼女の歌声はよく「天使の歌声」と称されることがある。普通に考えればこれは最大の賛辞なのだが、正直この呼び名は音楽業界ではかなり使い古された呼び名で、今やスーパーサイヤ人並みにあふれ返ってしまっている印象があるので、どうにも安っぽい響きに聞こえてしまう。つまりそれだけ彼女の歌声がそんじょそこらの天使たちとは次元が違うレベルにいるということである。
はっきり言って彼女の歌声は、それひとつで地上最高の芸術となる。曲の良し悪しなど超越した、ひとりの人間の体から生み出される最上の芸術だ。つまり極論を言うと曲など何でもいいということになる。『げんこつやまのたぬきさん』でも彼女が歌えば名曲となるだろう。もちろんいい曲であることに越したことはないが。つまり彼女はもはや「歌手」をも通り越して、「最高の鼓膜のマッサージ師」とでも呼んだほうがいいかもしれない。
『ライヴ・フロム・ニュージーランド』は現状では彼女の唯一の公式ライブDVDである。このときまだ20歳にも満たない時期の映像だが、その純度100%の宝石のような歌声が紛れもなく本物であるということを充分に伝えてくれる素晴らしき内容だ。途中、妹のソフィーも参加しデュエットするシーンがあるが、妹もまたいいシンガーで、何より姉妹仲良さそうな雰囲気にほっこりさせられる。そういえば数年前に彼女の来日ライブを観に行ったが、あれは僕がこれまで直に見たライブのなかでも最高のものだった。
彼女のCDのジャケットは基本的に顔面のドアップ写真が多く、ややごっちゃになりやすいところがある。DVDである本作も同じく顔面ドアップ写真なのだが、こちらはジャケットのために表情を決めて撮った写真ではなく、ライブ中の一瞬の表情を切り取ったものなので、一瞬の愁いを帯びた表情が彼女の自然な美しさを引き出している。写真から彼女の歌声すらも聴こえてきそうなところがライブDVDとしてもいい。
ここ最近は音源なども出さず目立った活動をしていないが、インスタなどで見る限りよくいる海外セレブのように急にぶくぶく太ったり奇行に走ったりもせず、ボランティアなどもしつつ結婚もし、清らかに人生を送っているように見える。多分彼女は今でも天使なのだ。
そう、名前だけではない本物の癒し、本物の天使。それがヘイリー・ウェステンラなのである。