一歩間違えればただの営業マンにしか見えなくなりそう〜ボズ・スキャッグス『ボズ・スキャッグス&デュアン・オールマン』〜
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第174回:一歩間違えればただの営業マンにしか見えなくなりそう
今回ご紹介するのはこちら。
ボズ・スキャッグス『ボズ・スキャッグス&デュアン・オールマン』(1969年)
ボズ・スキャッグスはいわゆるAORと呼ばれるジャンルに括られることの多いミュージシャンである。AORとは“アダルト・オリエンテッド・ロック”の略で、意味はそのまま“大人向けのロック”ということになる。泣きのメロディとボズの情感を込めた歌唱が印象的な『ウィ・アー・オール・アローン』は彼の代表曲でありAORというジャンル自体を象徴する名曲として語り継がれている(僕も中学生時代に吹奏楽部でこの曲を演奏した)。
そんな『ウィ・アー・オール・アローン』収録のアルバム『シルク・ディグリーズ』が大ヒットして有名になったボズだが、実はキャリア初期の頃はAORというよりもっとアメリカのルーツミュージックの影響下にあるブルースやカントリー色の強い土臭いロックをやっていた。
『ボズ・スキャッグス&デュアン・オールマン』はそんな彼のかなり初期のアルバムで、上に書いたとおりブルージィで土臭いロックを展開している。ただクラシックロックファンにとってやはり目を引くのはボズよりも“デュアン・オールマン”の名前かもしれない(だから邦題に入れたのか?)。ご存知オールマン・ブラザーズ・バンドのギタリストで、クラプトンの『いとしのレイラ』でソロも弾いていた彼がここでもギタリストとして参加しているのだ。僕は本作以前に『シルク・ディグリーズ』を気に入っていたのでボズは好きだったし、デュアンも大好きなので両者目当てで購入させていただいたのだが、これがまあ実に素晴らしい。
デュアンの味わい深いギタープレイは絶好調だし、艶のあるボズの歌唱はAORを歌ってもいいが、こういう温かいルーツミュージックにもよく合っている。個人的に『ルック・ホワット・アイ・ガット』は『ウィ・アー・オール・アローン』と同等かそれ以上の名バラードだと思う。間違いなくもっと評価されるべき名盤である。
ジャケットはセピア色に統一された色調のなか、坂道に建つ家の前でポーズを決めるでもなくほとんど棒立ちのハニカミ・スキャッグスというシチュエーション。なんというか、一歩間違えればただの営業マンにしか見えなくなりそうだが、実はほぼ直線のみで統一された画面がキッチリとまとまっていて収まりがいい。画面を縁取る外枠の線がいい働きをしていると思うが、意識的か無意識かも定かじゃないボズの直立不動っぷりがこの画面においては功を奏している。
ちなみにブックレットを開くと当時のスタジオミュージシャンたちの写真が並んでいるのだが、そのなかになぜか全裸のハニカミ・オールマンの写真もある。
一歩間違えなくてもド変質者だ。せめて意識的であってくれ。“アダルト・オリエンテッド・ロック”のアダルトってそういうことじゃないから。
とにもかくにも温もりを感じる土臭いブルース、カントリーロックが好きな人は必聴の名盤である。