ある種の不気味さを漂わせ音楽性の奥深さを想像させるジャケット〜ウリ・ジョン・ロート『アンダー・ア・ダーク・スカイ』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第175回:ある種の不気味さを漂わせ音楽性の奥深さを想像させるジャケット
今回ご紹介するのはこちら。
ウリ・ジョン・ロート『アンダー・ア・ダーク・スカイ』(2008年)
特殊な異名をもつギタリストというものがロック界には存在する。例えばマイケル・シェンカーは“神”、イングヴェイ・マルムスティーンは“王者”などと呼ばれているが、とりわけおかしな異名で呼ばれているのがこの“仙人”ウリ・ジョン・ロートである。“仙人”とはその浮世離れした風貌からというのもあるが、活動ペースが非常にマイペースで、しばらく姿を見ないと思ったらふっと下界に降りてきて奥の深い作品を生み落としまた天上に帰っていく。そんな気まぐれなイメージがその名に結びついているのだろう。
もともとはジミ・ヘンドリックスに憧れ、その影響は1970年代に一時期在籍していたスコーピオンズやソロ活動初期のプレイに色濃く反映されているが、同時にクラシック音楽や哲学、宇宙、日本などの東洋文化への興味も彼独自の音楽世界を形成していった。このあたりがまた仙人らしい。
そんな彼の音楽思想により生み出されたのが“スカイギター”なる楽器である。通常のギターよりもフレットの数が多く、さながらヴァイオリンのような高音を出すことができるギターで、このスカイギターによるプレイが彼のクラシカルな世界観と情感豊かなギタープレイに説得力を与えているのは間違いない。いよいよもって仙人だ。
1990年代以降はよりクラシカルなアプローチが強くなり、自らを宇宙の騎士としてアルバム全体をひとつの大きなコンセプトでまとめたオペラチックな作風に偏っていく。仙人に歯止めがきかなくなってきた。
『アンダー・ア・ダーク・スカイ』は1996年に発表した『プロローグ~天空伝説』を序章とする独自のコンセプト『The Legends Of Avalon』シリーズの第1部である。序章から第1部までの間が長いうえに、これ以降第2部はいまだに発表されていない。仙人も大概にしろ。
悪政による新世界の支配がテーマとなっているため、全体が非常にシリアスな空気に包まれており、キャッチーさとは無縁のアルバムなので気楽に聴くことは許されない。スコーピオンズ時代のような派手なロックギタリストとしてのスタイルを期待すると完全に裏切られるが、そのギタープレイはやはり唯一無二のもので、彼ならではの泣きのメロディとプレイは随所で味わえる。全体の音作りがどこか1970年代風なのも彼の趣向によるところだろうが、個人的にも好みである。
この美麗なジャケットはウリの親友でありフェア・ウォーニングのベーシストでもあるウレ・リトゲンの手によるもの。画家としても活動している彼の作風は幻想的な風景画が多く、ウリの世界観にもぴったりマッチしているので、当然といえば当然の人選だろう。非現実的なほどに美しい空と無機質で退廃的な雰囲気すら感じる都会の風景との対比が、ある種の不気味さすらも漂わせており、その音楽性の奥深さを想像させる。
そんな何から何まで完璧に自身の世界観を作り上げているウリ仙人だが、こと歌に関しては超下手なのだ。そこだけは人間味。