かなり緊張感を感じさせるデザイン〜ボン・ジョヴィ『バウンス』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第171回:かなり緊張感を感じさせるデザイン
今回ご紹介するのはこちら。
ボン・ジョヴィ『バウンス』(2002年)
1980年代のアメリカが生んだモンスターロックバンド。ハードロックがベースでありながら聴きやすいサウンドととっつきやすいメロディで、普段ハードロックなどを聴かない一般リスナーレベルにまでその名前を浸透させたバンドである(珍妙な名前のインパクトもあるだろうが)。
いかにもアメリカのバンドらしい爽快さ(カントリーの影響も感じさせる)や、ジョン・ボン・ジョヴィのルックスの良さ(俳優としても活躍)もまた一般リスナーにアピールしている要素だと思う(珍妙な名前のインパクトもあるだろうが)。
それゆえハードロックあるいは洋楽入門バンドとして彼らを通る人は非常に多く、その大衆性の高さから一部のディープなロックファンからは少々ナメられがちなバンドでもあったりする。とはいえ、この手の立ち位置にいるバンドの重要性については今さら説明するまでもないし、本質的な実力でもたいていの通好みとされるバンドたちを蹴散らせるレベルにあるのが常である。
『バウンス』はボン・ジョヴィの8枚目のスタジオアルバムに当たる。彼ららしいキャッチーなメロディは相変わらずだが、全体的にどこかシリアスな空気が漂っている。冒頭1曲目『アンディヴァイデッド』のリフの重苦しさにいつもの彼らと違った空気感を感じた人は多かったはずだ。
それもそのはずで、このアルバムは2001年9月11日に起こった同時多発テロに触発され、その影響が色濃く反映されたアルバムだからだ。あの悲劇からアメリカ国民に対して、楽曲を通して何を伝えるべきかを彼らは考え、その結果悲劇を忘れさせないために重苦しい雰囲気は残しつつも、再び立ち上がって前に進んでいこうというポジティブなエネルギーをも内包したアルバムとなった。それは歌詞の内容にも表れているし、サウンド面でも空を覆う暗雲が少しずつ晴れていくような繊細な変化を描いており、まさに当時のアメリカ国民の気持ちに深く寄り添ったアルバムというわけである。ボン・ジョヴィというバンドの立ち位置とキャリアがあってこそ作れたアルバムでもあると思う。
ジャケットも彼らのアルバムのなかでは最もダークな雰囲気を感じさせるデザインとなった。稲妻と衛星装置というモチーフといいモノクロの色調といい、かなり緊張感を感じさせるデザインで、当然アルバムのテーマに合わせてということだろう。まあアルバムの内容的にもう少し希望的要素が入っていてもいいような気はしたが、デザインとしては非常に秀逸だと思う。
どれだけいろいろ音楽を漁っても、結局ボン・ジョヴィは定期的に聴きたくなってしまう。それはやはり唯一無二である証拠だし、“ボン・ジョヴィ”という半オモシロバンド名は定期的に言いたくもなってしまう。その時点で彼らは勝ちなのだ。