このB級っぽさはA級ロックンロールバンドである彼らには似合わない〜ザ・ローリング・ストーンズ『ブリッジズ・トゥ・バビロン』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
番外編(第168回)〜残念なジャケット〜:このB級っぽさはA級ロックンロールバンドである彼らには似合わない
2021年の8月24日、世界最高のロックンロールバンドであるザ・ローリング・ストーンズのドラマー、チャーリー・ワッツが亡くなった。これはあまりにも唐突だった。その少し前に体調不良によりドクターストップがかかりストーンズのツアーに参加できないという情報が入ったときは、まさか亡くなるなんて思ってもいなかった。ストーンズのなかで最年長(80歳)とはいえ、昨年発表したストーンズの新曲『リビング・イン・ア・ゴーストタウン』でも相変わらず気持ちのいいドラミングを聴かせてくれていたし、ストーンズは勝手に全員長生きするものだと思っていたので、チャーリーの訃報を聞いたときはどこか非現実的な情報にも思えてしまった。
しかしどうやら世界中の誰もが認める最強のロックモンスターがその足を失ったのは事実で、結局その日というのは誰にも平等に来てしまうものなのだと今は実感させられている。
ツアーの代役はもともとストーンズとも親交の深いスティーヴ・ジョーダンが務めるということらしいが、今後のストーンズがどうなるかはわからない。なにしろストーンズのあの独特のグルーヴ感はチャーリーのドラムによるところが大きかった。あのドラムでなければストーンズは転がらない。個人的にも一番好きなドラマーだったこともあり、今後のストーンズが心配なところではあるが、おそらく間違いないのは彼らが止まることはないだろう。もちろん年齢的なこともあり永遠にというのは無理な話だが、動ける限りは全員続けるはずだ。彼らはそういうバンドだしそうあってほしいとも思う。だから今後の彼らの活動に関しては温かい目で見守ろうと思っている。
というわけでそんなチャーリー追悼の意味も込めて今週はストーンズを。ただし番外編として。だって変なんだもん。
ザ・ローリング・ストーンズ『ブリッジズ・トゥ・バビロン』(1997年)
まあこの連載の番外編ではすでに常連さんと化しているストーンズだが、今回、取り上げる『ブリッジズ・トゥ・バビロン』もやはりジャケットがいまいちだ。言っておくと内容は素晴らしい。そもそも1990年代以降のストーンズにハズレはないが、本作もしっかりストーンズ以外の何者でもない“あの”グルーヴ感が楽しめる名盤である。まあ実験的な要素もみられ、収録時間が長くやや疲れるという難点はあるが、アルバムとしての聴き応えは充分だ。疾走感のある『フリップ・ザ・スイッチ』や、静と動の対比のバランスがよくロン・ウッドのバッキングギターがいい味を出している『セイント・オブ・ミー』なんかはたまらなくかっこいい。
そしてやはりチャーリーのドラムである。聴き手を圧倒するような派手さは相変わらずないが、淡々としたスネアの音が重なるたびに楽曲に味わいが増していくような職人的なドラム。本作でもこのドラムなしにこの充実度は絶対に味わえなかったはずだ。
ジャケットは『ブリッジズ・トゥ・バビロン』というタイトルに合わせて、ストーンズにしてはやや神話チックな雰囲気を感じさせる。ただ、僕は最初に見たときどっかのB級パワーメタルバンドのジャケットかと思ってしまった。1、2枚ほどそこそこ評価の高いアルバムがあるが今は何してるかわからない系のバンドの。これはA級ロックンロールバンドであるストーンズにはちょっと似合わないジャケットだろう。まあいつものことではあるが。
ちなみに上の画像のデザインは初回限定版に付属されている植物の装飾が施されたプラスチックケースを被せた状態のもの。これがまたあってもなくても変なのである。
というわけでチャーリーは亡くなってしまったが、半世紀以上に渡りストーンズのドラマーとしてその音を残してくれたことに感謝し、ご冥福をお祈りしよう。
チャーリー・ワッツさん、どうか安らかに眠ってください。もしくはこのコラムを読んで怒って生き返ってください。