徹底的に作り込まれた雰囲気はとても好みなのである〜リッチー・コッツェン『マザー・ヘッズ・ファミリー・リユニオン』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第165回:徹底的に作り込まれた雰囲気はとても好みなのである
今回ご紹介するのはこちら。
リッチー・コッツェン『マザー・ヘッズ・ファミリー・リユニオン』(1994年)
リッチー・コッツェンというギタリストは個人的にもっと大きな評価を得ていい人だとずっと思っている。もともとはソロアーティストとして1989年にデビューしているが、その後、大物バンドのポイズンに短期間だが加入しそれなりの知名度とメンバーの婚約者を獲得し、以降はしばらくソロで活動。1999年にはポール・ギルバートの後任としてミスター・ビッグに加入。ここでさらに知名度を上げるがミスター・ビッグ自体がその後すぐに活動休止に入ってしまったためここでも在籍は短期間。現在はソロと並行してザ・ワイナリー・ドッグスというバンドでもマイペースに活動中。
この経歴でもわかるとおり、有名バンドに加入してそれなりに知名度を上げてきたリッチーだが、この人の真骨頂はやはりソロアルバムである。ハードロック、ファンク、ブルース、R&B、ソウルなどの要素を織り交ぜた独特の黒っぽいグルーヴ感が非常に特徴的で、ボーカリストとしても非常にうまく、その声も相まって知らずに聴いたら普通に黒人アーティストだと思うだろう。さらにギター、ボーカル以外にもベースやドラム、キーボードまでこなすマルチプレイヤーで、そのうえイケメンとくるから殴りたい。
『マザー・ヘッズ・ファミリー・リユニオン』は彼の4枚目のソロアルバム。自他ともに認める代表作で、リッチーのソロを聴くならひとまずこれか2003年の『チェンジ』あたりから入っておけば間違いはないと思う。超絶的なギターテクニックを味わえるアルバムではあるが、同時代に登場した多くのテクニック至上主義的なギタリストたちとは違い、フィーリングや味わいをむしろ重要視している姿勢は素晴らしい。ソロもいいがリズムギタリストとしてのバッキングのほうがこのアルバムでは聴きどころである。ブルージィで乾いた音や黒っぽいグルーヴ感はかなり1970年代的な風味が感じられ、ハードロック畑のギタリストとして語られることが多いギタリストではあるが、こういうスタイルはハードロック界ではちょっとほかにはみられない。そういう意味では1970年代のブルースロックなんかが好きな層に響くアルバムかもしれない。
その音楽性はジャケットにももろに現れている。ぱっと見て1990年代のアルバムにはちょっと見えないだろう。この時代にこんなでけえベルボトム穿いてた奴いたか? タイトルロゴもまさにそんな感じだ。しかしこの徹底的に1970年代風に作り込まれた雰囲気は個人的にとても好みなのである。音楽的にもジャケット的にもリッチーのクールなセンスが爆発したアルバムだと思う。
アーティストとしてここまで完璧に兼ね備えた人はそうそういない。やはり彼はまだまだ過小評価されている。
そういえば何年か前リッチーの来日公演のチケットが入った財布電車でスられたなあ。
まったく、こんな世の中じゃ、ポイズン。