ジャケットも含めて素晴らしいアルバムだが……〜ブラック・サバス『エターナル・アイドル』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載

連載・コラム

[2021/9/15 12:00]

音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。


第162回:ジャケットも含めて素晴らしいアルバムだが……


今回ご紹介するのはこちら。

ブラック・サバス『エターナル・アイドル』(1987年)

<あの海外セレブの背後に偶然ロバートが写り込む奇跡>

確かこの連載3回目くらいの登場となるヘヴィメタルの始祖的バンド、ブラック・サバス。前も書いた気がするが、とにかくこのバンドの歴史はあわただしい。なにしろメンバーが30秒ごと(感覚)に入れ替わっているくらいだ。一時期僕も在籍していたかもしれない。

もともとは帝王オジー・オズボーンがボーカルを務めていたが、後にはイアン・ギランやロニー・ジェイムス・ディオといった大物も在籍。特にロニー在籍時は『ヘヴン&ヘル』といった歴史的名作も残している。そんな歴史のなかにあって、どうにも評価されていない暗黒期(バンドの性質的にややこしい表現)的な扱いを受けている時代、それが今回紹介する『エターナル・アイドル』でボーカルを務めるトニー・マーティン在籍時代である。

サバス加入まではまったくの無名シンガーで、彼が加入に至るまでの経緯はなんかごちゃごちゃしていて僕もよくわからないのだが、気づいたらサバスにいた。実際、暗黒期とされる時期に在籍していただけに、トニーは今でも知る人ぞ知るマニアックシンガー的な扱いを受けてしまっている。ウィキペディア見ても名前青くなってないし。しかし、シンガーとしての実力は本物で、ロニーを彷彿とさせる声質と高い歌唱力でサバスの音楽性にもよくマッチしている。特にメロディの美しさを立たせる能力に長けているシンガーだと個人的には思う。

そんなトニー初参加の『エターナル・アイドル』。これが実に素晴らしい内容で、サバスらしい陰鬱な雰囲気のなかに見られる美しいメロディ、それにやはりこれがあればたいがいは間違いないということを思い知らされるトニー・アイオミのヘヴィでありながら光沢感のあるギター。そこにトニーの歌唱が乗り見事なアンサンブルを聴かせてくれる名盤である。

ジャケットもまたサバスらしい静謐(せいひつ)で文学的な雰囲気を漂わせるジャケットだが、この彫刻作品の作者は誰かわからない。おそらく既存の作品だろうが、相当な腕をもっていることは確かだ。『エターナル・アイドル』というアルバムタイトルを考えると何か深いものを感じさせるジャケットでもある。

そんなジャケットも含めて素晴らしい内容のこの『エターナル・アイドル』だが、セールス的にはまったくの不振な結果に終わってしまったようだ。これは初参加のトニー的にはまあまあ堪える出来事だったのではないだろうか。ただでさえ大物バンドのボーカルを務めるというプレッシャーもあったろうに。なので世間的ランクなどよりも本質重視で芸術を鑑賞できる人にはぜひ聴いてもらいたいアルバムである。

どうでもいいけどトニーとかトニーとかロニーとかオジーとかややこしいんだよ。前も書いたっけ?

平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)

ひらい“ふぁらお”ひかる●1984年3月21日生まれ、神奈川県出身。2008年に新道竜巳とのお笑いコンビ“馬鹿よ貴方は”を結成。数々のテレビ/ラジオ番組に出演するほか、『THEMANZAI2014』『M-1グランプリ2015』の決勝進出で大きな注目を集める。個人では俳優やナレーターとしても活躍。音楽・映画観賞や古代エジプト、恐竜やサンリオなど幅広い趣味を持つ。