おもちゃ箱のような本作のイメージにはぴったり合っていると思う〜布袋寅泰『King & Queen』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第176回:おもちゃ箱のような本作のイメージにはぴったり合っていると思う
今回ご紹介するのはこちら。
布袋寅泰『King & Queen』(1996年)
布袋さんといえば当然元BOØWYのギタリストとしてよく知られているところだが、僕にとってBOØWYはやや上の世代のバンドのため、ソロアーティストとしての布袋さんのほうが馴染み深い。1990年代J-POPのヒットチャートでも頻繁に上位に食い込んでいたし、『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』などのテレビ番組でダウンタウンさんとオモシレートークを展開しているのをよく見ていたので、僕にとって布袋さんは気のいいロックおじさんというイメージが強かった(たまにオッカネーエピソードも聞くが)。
『King & Queen』はまさに僕がよく見てきたあの頃の布袋さんのソロアルバム。国民にはもはや江頭さんの代表曲として捉えられているかも知れないなどと言ってしまうことにスリルを覚える『スリル』や、優しいメロディをもつ名曲『ラストシーン』などの当時のヒット曲が収録されており、全体的にポップな作風に仕上がっている。
面白いのは、近未来チックなデジタルサウンドが随所に導入されていながらも、ロカビリーなどのオールディーズスタイルやそのスピリットが根底に流れていること(『SPACE COWBOY』あたりが非常にわかりやすい例)。まあ、それがそもそも布袋さんの基本的なスタイルというイメージだが、本作はJ-POP的なメロディのわかりやすさまでうまく融合させているのが凄い。初めてブライアン・セッツァーをゲストに迎えているが、ギターアルバムという印象にはなっておらず、あくまで歌ものの楽曲がメイン。両者のギターに関しては、ここぞという場面でかっこいいプレイを聴かせてくれる。
ところでリットーミュージック出版のある本で見たエピソードだが、布袋さんとブライアンの対談中、ブライアンがずっと『スリル』のことを『Baby Baby』というタイトルで呼んでおり、それを布袋さんが「あれは『スリル』って言うんだよ」と突っ込んだところ、「あれは『Baby Baby』ってたくさん言っているから『Baby Baby』なんだよ」と言っているのがなんか面白かった。本人が『スリル』だっつってんのに。
ジャケットは、なんだか可愛らしいディズニーアニメのようなデザインの猫ちゃん。布袋さんのアルバムの中でもやや異色なタイプのデザインだと思うが、初回限定版ではケースの色なども含めてさまざまなデザインのものが出ており、こういったエンターテインメント性においても本作がかなりJ-POPリスナー向けに作られた作品であることがうかがえる。さまざまなタイプの楽曲が収録されているおもちゃ箱のような本作のイメージにはぴったり合っていると思う。ちなみに僕も初回盤を所持しており、↓の写真はブックレット表紙のデザイン。これがまたかっこいい。
『スリル』を乱用する江頭さんに対してはご本人およびファンのみなさま的にはいろいろありそうだが、入門者は江頭さん経由で『スリル』が気になり本作に入るというパターンも全然良いことだと思う。始めはあの黒タイツがよぎりまくるだろうが、聴きこめばそのうち頭の中から走り去っていく。むしろタイトルを勝手に『Baby Baby』に変えて呼んでいるブライアンに皆でヒップアタックするべきだ。