直線的で無機質な要素と民族的な雰囲気を感じさせるデザインが良い〜久石譲『マイ・ロスト・シティ』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第180回:直線的で無機質な要素と民族的な雰囲気を感じさせるデザインが良い
今回ご紹介するのはこちら。
久石譲『マイ・ロスト・シティ』(1992年)
久石譲さんといえば、多分多くの日本人にとってはジブリ映画のイメージが強いだろう。なにしろ有名どころのジブリ映画のほとんどの音楽を久石さんが担当しているのだから。そして、そのファンタジックでノスタルジックなメロディは映画の世界観とも絶妙に調和し、ストーリーを盛り上げるのに一役も二役も三役も買っている。なんなら二十九役くらいは買っているかもしれない。まさに映画音楽としてひとつの理想形ともいえるような域に達していると思う。
そんな日本人の琴線をとことん刺激し、軽くワンフレーズを聴いただけでもその独特の世界観を感じることのできる久石さんの音楽に、一度しっかり向き合って聴いてみたいと以前から思っていた。
『マイ・ロスト・シティ』は久石さんの7枚目のアルバムにあたる。1920年代のアール・デコ時代にインスピレーションを受け作られたアルバムのようだが、洗練された都会的な空気感の中に潜むメランコリックな情緒を実にうまく表現している。さすがというかなんというか、どの曲も想像力を刺激され、映像が頭の中にみえてくるようである。このあたりはやはり映画音楽の経験で培われたところだろうか。
ちなみにあとで知ったのだが、収録曲のひとつである『狂気』はジブリ映画の『紅の豚』で使用されている。これは実際に『紅の豚』が同時期に制作されており、しかも本作と同様に1920年代を舞台にしているという偶然からつながったところらしい。
ほかにはタンゴ調の曲があったり、エリック・サティ風の曲もあったりと楽曲の幅は広いと思うが、やはりどの曲を聴いてもどこか空虚な寂しさを感じるあたり、なかなか気軽には聴けないタイプのアルバムでもあると思う。しかし純粋に楽曲そのものの質は高いし、感傷に浸りたいときにはこれ以上の作品はないといえるくらいうってつけである。
ジャケットはアール・デコならではの直線的で無機質な要素と、どこか民族的な雰囲気も感じさせるデザインが良い。またブックレットのなかの各ページの背景も素晴らしく、都会の風景をセンチメンタルに映し出す写真たちが音楽の世界観ともこのうえない調和をみせてくれる。これもまた映画音楽で培われた才能だろうか。この美しい写真群だけでも見る価値は十分にある。
イージーリスニングとしてのイメージが強い人かもしれないが、このアルバムはちょっとイージーには聴けない。しかし唯一無二の個性をもった名盤であることは間違いない。
このアルバムを聴かねえ人は、ただの人だ。
……別にいいのか。