背景の肖像画とスティーヴのファッションが韻を踏んでいるようで面白い〜ゴットハード『リフト・ユー・アップ』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第178回:背景の肖像画とスティーヴのファッションが韻を踏んでいるようで面白い
今回ご紹介するのはこちら。
ゴットハード『リフト・ユー・アップ』(2005年)
メリークリスマス。
というわけで今年も明けるべくして明けた新年。今年こそは明けないんじゃないかと思っていたが、どうにも暦ってやつはいまだに予測不能である。そして相変わらずこの連載では音楽と美術両方の素晴らしさを伝えていけるよう、たまに思想強くなっちゃったりもしながらコツコツとがんばっていこうと思うので、引き続きお付き合いいただければ幸いである(書籍化してー)。
さて、2022年一発目の『音楽“ジャケット”美術館』、まずはここ2年ほどのヤッテランネエ空気をロックンロールに吹っ飛ばす爽快なナンバーで景気づけといこう。
知名度の低さと実力の高さが合っておらず、世の理不尽さを身をもって教えてくれているバンドといえばスイスの英雄ゴットハードである。このバンドがいまだにスイス以外での大きな成功を手にできていないという事実は、どれほど実力というものが無力かを痛感させられる事実でもある。しかし、それでもそこにこだわりたいと思うのが真の表現者だろう(もう思想強くなっちゃった)。
そんな彼らの2005年発売のアルバム『リップサーヴィス』を聴いてほしい。すごいアルバムである。楽曲の性質から曲順の妙に至るまで、ハードロックのロマンをすべて詰め込んだハードロックの教科書のようなアルバムで、「ハードロックって何?」と聞かれたときにこのアルバムを聴かせればその答えになるほどの理想的なハードロックアルバムである。
『リフト・ユー・アップ』は『リップサーヴィス』からのシングルカット曲で、縦ノリのアリーナロックタイプの豪快な曲。こういうタイプの曲もまたハードロックのひとつの様式美で、アルバムでは3曲目に置いているところがまたちょうどいい。2010年に事故で亡くなった故スティーヴ・リーがボーカルの時期としては、リフ主体のゴリゴリ路線だった初期と、メロディに重点を置いていた中期を経由したからこそ生まれたであろう、ヘヴィさとメロディアスさを兼ね備えた超名曲だ。
このシングルは『リフト・ユー・アップ』のバージョン違いのみで構成されていて、1曲目はアルバムバージョンよりもアウトロが長くなっており、スティーヴの痺れるようなフェイクが味わえる。2曲目はほぼアルバムと同じ。3曲目はアコースティックアレンジで、非常にブルージーな雰囲気が出ていて素晴らしい。4曲目はまさかのクラブミュージック風の打ち込みアレンジ。これはまあ遊び心。そしておまけで映像再生機器で見られるフォトギャラリーも収録されている。
スティーヴは史上最高のボーカリストだが、スティーヴ時代のゴットハードのジャケットはどうにも無念なものが多く、この連載でも何度か番外編で取り上げさせていただいている。ただこの『リフト・ユー・アップ』シングル盤に関してはとてもかっこいいジャケットだと思う。まあこれもハードロック/ヘヴィメタルバンドのジャケットではよくあることで、アルバムが気合入れすぎなのかシングル盤では変に考えすぎていないぶん、シンプルでいいジャケットになってる場合が多いのだ。
本作も落ち着いた色合いと上品な空間のなか、ロックンローラーらしいファッションに身を包んだメンバーとの対比がバランスよく、立ち位置も絶妙である。背景の肖像画とスティーヴのファッションが韻を踏んでいるようで面白い。正直このデザインをそのままアルバム『リップサーヴィス』に起用しても良かったのではないかとさえ思う。
というわけで2022年、順調にいけば今年中にこの連載も200回を迎えることになるだろう。もっと言えば2022年中に222回を迎えることもできるかもしれない。しかも手が2本だ。
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あけましておめでとう!