アルバムに見られるエスニックな香りを前面に押し出した感じだ〜デフ・レパード『スラング』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第179回:アルバムに見られるエスニックな香りを前面に押し出した感じだ
今回ご紹介するのはこちら。
デフ・レパード『スラング』(1996年)
1990年代といえば、ロック界はグランジ、オルタナティブ全盛の時。1980年代の華やかなアリーナロックに対するアンチテーゼ的な、陰鬱な重苦しさを感じさせる音楽が共感を得た時代だった。
まあ巨大化しすぎた文化には必ず反対勢力が現れるのが歴史の常だが、1980年代に活躍してきたメタル系の大物たちもこれまでの手法で通用する時代ではなくなったことに困惑し、各々が時代に合わせた変化を余儀なくされ、従来の音楽スタイルを捨て時代に迎合していった。そしてそのほとんどがそれまでのファンからは反感を買う結果となり、その後、結局本来のスタイルに戻るという変な様式美を生んだ時代でもあった。
デフ・レパードはイングランド出身のハードロックバンド。まさに1980年代に爆発的な売上を叩き出した大成功者である。なかでも1987年のアルバム『ヒステリア』は、2,500万枚を超える売上を記録したモンスターアルバムで、重厚なコーラスワークや緻密に作り込まれた未来的なサウンドは彼らをイメージづける個性となった。
そんなデフ・レパードもまた例にもれず、1996年の本作『スラング』で突然それまでのイメージを覆す音づくりを展開してきた。ファンが彼らに期待するポップで重厚でわかりやすい音楽性とは異なる暗さや生々しさ、あるいはエスニックな雰囲気を押し出した作風で、発売当時はかなり酷評され、今でも問題作として語り継がれているアルバムのようだ。
確かにところどころでスマッシング・パンプキンズあたりを彷彿とさせる感じはあるし、楽曲の方向性も良く言えばバラエティに富んでいる、悪く言えば散漫ともとれそうだ。僕もそんな前評判を知っていたので正直ほとんど期待せず、中古で消しゴムくらいの値段で売っていたので何となく買ってみたというだけであり、実際あまり聴き込んでいないアルバムでもある。
しかし今改めて聴いてみると、実は結構楽しめるアルバムだったりもする。いろいろなタイプの楽曲があるのでトータル的にという感じではないが、個人的にとても好みな1970年代風の乾いたロックスタイルの曲なんかもあり、モダンと見せかけて実はクラシックな要素もあるという面白いアルバムだ。また、僕が所持している盤は2枚組になっていて、2枚目はアコースティックライブ音源が6曲収録されている。アコースティックスタイルもまた1990年代の流行のひとつだが、メタルバンドのグランジ、オルタナティブ方面への傾倒よりもアコースティック方面への傾倒のほうが個人的には良いものが多い気がする。本作もまた然り。
ジャケットがまたそれまでの彼らの作品とは一線を画す異様なデザインで、アルバムに見られるエスニックな香りを前面に押し出した感じだ。これまた時代に合わせた内省的な雰囲気を意識したのだろうか。彼ららしくはないが単純にいちジャケットデザインとして僕は『ヒステリア』あたりのデザインよりも優れていると思う。象形文字のようにも見えるタイトルロゴがまた良い味を出している。
メタル低迷期の大物バンド暗中模索タイプの中古激安アルバムだと思ってナメてかかると良い思いをしてしまうアルバムである。つまりこれから聴く人はナメてかかろう。