きったねえギターの写真だがこれこそブルースだ〜ビッグ・ジョー・ウィリアムス『9弦ギター・ブルース』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載

連載・コラム

[2022/2/2 12:31]

音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。


第182回:きったねえギターの写真だがこれこそブルースだ

今回ご紹介するのはこちら。

ビッグ・ジョー・ウィリアムス『9弦ギター・ブルース』(1961年)

<あの海外セレブの背後に偶然ロバートが写り込む奇跡>

僕はブルースをそこまで深いところまで知らないが、ブルースギタリストというのはやはりちょっと格が違うなとよく思う。Tボーン・ウォーカーはそれまで僕が好きだったギタリストたちを蹴散らしたし、ライトニン・ホプキンスはブルースとは何かを教えてくれたし、バディ・ガイはロックギタリストよりもロックしているし、マディ・ウォーターズはさまぁ~ず三村さんだし。

ポピュラーミュージックの祖として、今ほど音楽の商業化が進んでいない時代ゆえの無駄な装飾のない生々しさか、もしくは黒人たちのハングリー精神が生み出したソウルが乗っているからなのかはわからないが(あるいは両方か)、テクニック面においては明らかに現代のほうが優れたギタリストが多いのに、心を揺さぶり、長く愛せるのはやはりブルースのギターなのだ。もちろん今でも素晴らしい音楽はたくさんあるのだが、ブルースを聴くたびに皆時代とともに何か大切なものを失ってしまっているのではないかとも思わされる。

そしてビッグ・ジョー・ウィリアムスは割と最近知ったブルースマンだが、どうやら僕のなかでの最強のギタリストのひとりに数えられそうだ(今Tボーン・ウォーカーと殴り合っている)。

ミシシッピ出身のビッグ・ジョーはさすらいのブルースマンと言われ、シカゴから南部をさすらい各地でブルースを歌い続けてきた。そしてその武器はジャケットにもあるゴミみてえな9弦ギター。そもそも日本ではおそらくあまり知られていないほうのブルースマンで(ウィキペディアもないし)、ディスクユニオンでブルースコーナーを荒らしてたらたまたまこのインパクト抜群のジャケットを発見し、「なんだこのきったねえギターは!」と思いびっくりしてつい買ってしまったというわけだ。この9弦ギターは自ら改造したもので、ジョーのパワフルなボーカルに負けない音を出すためという狙いがあるようだが、たしかに音を聴く限り通常の6弦ギターだったら物足りなく感じていたかもしれない。リサイクルショップで2000円くらいで売ってそうな見た目なのに、どんな高級ギターよりもその音は輝きを放っている。当然それは奏者の力なわけだが。

このなんのひねりもないきったねえギターの写真。しかしこれこそがブルースなのだ。主人とともにさすらい続けた旅のなかでのひとときの休息にも見える。お疲れ気味の9弦くん。お似合いのコンビだ。

本当の音楽とは? 本当に大切なものは何か? そんなことを教えてくれている気がするビッグ・ジョーのブルースである。

でもやっぱきったねえ。

平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)

ひらい“ふぁらお”ひかる●1984年3月21日生まれ、神奈川県出身。2008年に新道竜巳とのお笑いコンビ“馬鹿よ貴方は”を結成。数々のテレビ/ラジオ番組に出演するほか、『THEMANZAI2014』『M-1グランプリ2015』の決勝進出で大きな注目を集める。個人では俳優やナレーターとしても活躍。音楽・映画観賞や古代エジプト、恐竜やサンリオなど幅広い趣味を持つ。