妄想はほどほどに〜シェリル・クロウ『カモン・カモン』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第183回:妄想はほどほどに
今回ご紹介するのはこちら。
シェリル・クロウ『カモン・カモン』(2002年)
黄金色の陽に染まるギターを持ったクールビューティー。西海岸の開放感を感じさせる爽やかなジャケットに自分もこの空間に入り込んだような気分になって、思わず彼女に話しかけたくなってしまう。そして声をかけるとこちらに目を向けニッコリ微笑む彼女。僕のうしろには警察。転落の始まり。
現実に戻りましょう。
1990年代に登場した女性ロックシンガーのなかでも屈指の人気を誇る彼女。僕も洋楽に興味をもち始めてからかなり早い段階で知った人で、昔アコギを多少嗜んでいた頃、彼女の『イフ・イット・メイクス・ユー・ハッピー』がほぼ唯一のレパートリーだった。
時代的には1990年代といえばグランジ、オルタナティブが全盛の時期だが、彼女はどちらかというとローリング・ストーンズなどのクラシックロックに傾倒しており、音楽性もキャロル・キングなんかが好きな人にウケるタイプかもしれない。
『カモン・カモン』は彼女の4枚目のスタジオアルバムで、日本でもかなりのヒットを記録した。ジャケットを含めたアルバム全体の爽やかな空気感を象徴するようなシングル曲『ソーク・アップ・ザ・サン』は聴いたことがある人も多いだろう。まさに西海岸風の開放的な空気感が全体を占めており、ドライブなどにも最適なリラックスして聴けるアルバムだ。また参加ミュージシャンの数がやたら多く、ちょっとした小劇場のキャパ以上の数のミュージシャンが協力している。そのなかにはイーグルスのドン・ヘンリーもボーカルとして参加しており、そのあたりからもアルバム全体のコンセプトとして西海岸的アプローチが根底にあることがうかがえる。ほかには、レニー・クラヴィッツやスティーヴィー・ニックスなども参加している。
スローからミドルテンポの曲が多いのに重く感じさせないのは曲調だけの印象ではないだろう。やはりこの爽やかなジャケットの印象も手伝っていると思う。誰もが手に取りやすいポップさがあり、またブックレットのなかも歌詞とともにシェリル本人のグラビア的写真を多く載せているので、ちょっとしたシェリルの写真集的楽しみ方もできるというお買い得品だ。別にアイドル的な見方をされている人ではないだろうが。
手に取りやすく聴きやすい、洋楽入門者にも最適なグッドアルバムである。
ただし妄想は警察が登場する前で止めましょう。