まさにアルバムの世界観を表現している〜Unlucky Morpheus『Unfinished』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第184回:まさにアルバムの世界観を表現している
今回ご紹介するのはこちら。
Unlucky Morpheus『Unfinished』(2020年)
Unlucky Morpheus(アンラッキーモルフェウス)こと“あんきも”は、もしかしたら日本でヘヴィメタルという時代遅れの音楽を今一度一般層にまで広められる可能性が最もあるバンドかもしれない。
昔ながらのメタルファンをうならせるようなヘヴィさ、ブルータルさも適度にもちながら、もともとのルーツであるアニメやゲームの影響を受けた世界観は現代人にも響くところであり、メンバーは美男美女揃いで華やかさがあり、何よりそれらの魅力に説得力をもたせるだけの実力がある。
そもそもはボーカルのFukiさんがサンリオ好き(シナモン推し)でもあることで仲良くさせていただいており、ライブも何度か拝見させていただいているのだが、明らかに40代、50代くらいの絵に描いたようなメタルファンから、どちらかというとアニメ好きっぽい感じのお客さんまで客層は幅広い。もともとメタルとアニメ、ゲームというのは割と親和性の高い文化ではあるが、ここまで両ジャンルのファンを多く獲得しているバンドはいないのではないか。毎度毎度の作品のクオリティの高さから順調にファン層も拡大していってるはずだし、いずれあんきもを紅白で見れる日もそう遠くないかもしれない。
今回紹介する『Unfinished』は現状彼らの最新作ということになるが、もはやあんきもは安心のブランド。今回もまた素晴らしい内容である。曲調やデスボイスの多用、あるいはジャケットの印象などからいつもよりはややダークな作風にも思えるが、ギタリストである紫煉さんのメロディメイカーとしてのセンスはもはや貫禄すらも感じるレベルで、どんなメロディを紡げば人が感動するのかを完全に熟知している感じだ。そして何より本作でもすごいのはFukiさんの歌唱である。そのずば抜けた表現力と声量は作品ごとにさらに進化を続け、楽曲そのものの質の高さもさることながら、Fukiさんによる伸びやかな声の魅力こそが本作において味わえるカタルシスの大部分を占めていたりもする。日本の女性メタルボーカリストとしては浜田麻里さんや陰陽座の黒猫さんにも並ぶレベルにいるのではないかと僕は思う。またあんきもならではの個性にもなっているJillさんのヴァイオリンももはやリードギター並みに大活躍だ。
ちなみに本作ではブラジルのパワーメタルバンドANGRAの名曲『Carry On』をオマージュした英語詞の曲も入っており、初期ANGRAのボーカリストであり2019年に亡くなったアンドレ・マトスを偲んでのことだろう。英語の発音がまたしっかりと聴き取りやすく、無理した感じも出ていなくて良かった。全9曲で30分ちょいという短さの『Unfinished』だが、全曲にしっかりとしたフックがあり収録時間以上の満腹感を味わえる。
そしてこのダークな雰囲気のジャケットだが、紫煉さんによると過去作である『Black Pentagram』のジャケットにも山羊の骸骨・バフォメットが登場しており、本作も全体的にヘヴィな雰囲気であるため再登場してもらったとのことだ。干からびちゃってるけど。さらに『Salome』という曲があるため銀の皿にそれを乗せ、SE(サウンドエフェクト)を除いて8曲入りなので8種類の花を描いてもらったのだという。モノクロのダークな色調と色鮮やかな花との対比が美しく、まさにアルバムの世界観をよく表現している。
クレジットによると荻原敦さんという方による絵らしいが、最初調べたらヤクルトスワローズの選手と『寝てても儲かるかんたん不動産投資』の著者が出てきたので、あまりメディアに登場しないタイプの絵師なのかと思ったら、“荻原”(おぎわら)でなく“萩原”(はぎわら)で調べてしまっていた。昔ふかわりょうさんが「もう荻原でも萩原でもどっちでもいいだろ」というあるあるネタをやっていたが、『寝てても儲かるかんたん不動産投資』の著者とあんきものジャケットの絵師では全然違う。さすがにどっちでもよくない。お間違えのないよう。
まあなんにせよ今後伝説となる可能性を大いに秘めたバンドなので、メタル好きでない一般リスナーの方も含めて今のうちにチェックしておくことをおすすめする。
……寝てても儲かる。ほう。