【掟ポルシェの食尽族】第10回:家庭で簡単にできかねる! 掟スペシャルタイカレーの作り方

連載・コラム

[2020/4/13 12:00]

自称「食べもののことになると人格が変わる」ほど食に執心する“食尽族”でミュージシャンの掟ポルシェ(ロマンポルシェ。、ド・ロドロシテル)が、実際に食べてみて感動するほど美味しかったものや、はたまた頭にくるほどマズかったもの、食にまつわるエピソードについて綴る連載。読んで味わうグルメコラムがここに!


第10回:家庭で簡単にできかねる! 掟スペシャルタイカレーの作り方


1990年代に出会った猛烈に旨いカレー

 食の奇人・マズいものを食ったら苦々しい表情を露骨に顔に出す男こと掟ポルシェです! あの、この連載もう10回目になりますが、大事なことを書くのを忘れてました。現在、一家4人暮らし。嫁とふたりの小学生の子ども&俺という家族構成で、家で食べる料理は基本全部自分が作っています。それには理由があるのです。それは、“人が作った料理が苦手だから” (もちろん自分が好きな料理店の店主が作るものは別)。一般家庭では奥さんが料理を作るのが当たり前みたいになっていますが、我が家では奥さんよりも自分のほうが日中家にいる時間が多いこともあり、自分が作っています。いや、奥さんが作ったらその日奥さんの食べたいものを家族全員で食べるわけじゃないですか。大変申し訳ないんですけれども、俺にはそれができない。どうしても。自分で料理作ったら、その日自分が食べたいものを食べられるわけです! でないとダメなの俺おかしいんで! クッキング(をママに許さない)パパ! ある意味最悪! 俺のこの“いま食べたいものを食べたい!” というわがままに付き合ってくれるうちの奥さんには本当に感謝! いつもすみません!
 そのぶん、家の料理はレシピを見たり味見を何度もするなどして味を細かく調節し、極力美味しく、料理店のクオリティに負けないよう努力して作ります。マズいものを食べたくないので必死で上手くなります。その甲斐あってか、それなりに美味く作れる料理のレパートリーが何個も完成。我が家の奥さんと子どもたちにご好評いただいております! とうちゃんのわがままレシピに付き合ってくれてありがとううちの家族!

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 “いま食べたいものが食べたい!” は、行きつけの料理店のそれだったりもします。いまでこそ多少は外食にお金を使えるようになりましたが、若い頃は欲しいレコードや本が山ほどあり、一食二食抜いてでもそっち買うのを優先していましたので、美味しいものに出会ってもそんな頻繁にはお店に行けないため、「食べたいものはレシピを想像して自分で家で再現してみる」ことに。
 そんな俺がまず一番最初にコピーした料理店の料理が、信濃町メーヤウのタイカレー(辛口)です。

 1990年代初頭、信濃町に住む女の子と付き合っていた関係で、まだ駅のすぐそばにあったバラック小屋のような店舗(店のメニューの裏で店主自らそう語っておられます)を発見。いつ通りかかっても行列ができていてとても気になっていました。当時の信濃町はまったく開けておらず、某宗教団体の施設と慶応大学医学部校舎以外にめぼしい建物はほとんどなく、コンビニさえ駅前のニコマートが朝7時から夜10時までしかやってないとかいう時代でしたので、駅前の一等地に何故かあるバラック小屋の店には自然と興味を惹かれたのです。食べたことがある彼女が言うには、「ここのカレーは気が狂うぐらい辛い」と。北海道から大都会東京に出てきて激辛というエンタテイメントは実に魅力的であり、財布の中身は常にがらんどうの如しでしたが清水の舞台からバンジージャンプするつもりでメーヤウを訪れてみました(大袈裟)。

 内装もへったくれもない黒く塗っただけの店内(だったような記憶)。メニューを見ると、辛くて気が狂うと彼女が言うのは当時で言う『大辛』(現在のメーヤウカレー)。彼女はこれを頼みます。やや苦手なジャガイモが入ってるので俺は『辛口』(現在のレッドタイカレー)を注文。今や注文してから提供まで笑っちゃうほどチョッパヤで出てくるメーヤウのカレーですが、当時(多分1991年頃)は普通の飲食店程度の待ち時間で出てきました。先に出てきた彼女が注文した大辛を一口もらって味見。……うっわ辛っぇえ! 大辛はタイカレーと言っても辛さ=旨さに特化したようなシンプルな味。辛み強めのスパイス+塩+ココナッツミルクという感じで、現在福岡在住の俺だけにわかりやすく言うとタイカレーと言うよりは福岡のモナラやツナパハ等のスリランカカレーに似た味わい(ほとんどの人想像つかないと思いますごめんなさい)。辛い!→しょっぱい!→でも旨い! という順番に脳に指令が来る刺激的な美味しさです。ジャガイモ苦手だけど、次来たらこれ食おうと決めました。

 俺が注文した辛口は、彼女曰く「大根が入ってる」とのこと。カレーに大根! 食べたことのない味覚が何より好き! 想像しただけで脳汁が出る! かくして提供された初メーヤウの辛口。パッと見の段階でゴロゴロ大根が入ってる! 美味しそう! では、いただきま、旨い!!!! 反応速すぎですが、旨いものを食べたときの脳のシナプス連結速度は驚くほど瞬時! 先ほどの大辛に比べココナッツミルクが感じられる割合が増えていて、スパイスとナンプラーの塩分とのバランスが絶妙すぎて脳がハレーション起こしてきました! カレーなのに明らかにいままで食べたことがない味! これまでにもタイ料理店でタイカレーを食べたことがありましたが、いままでのそれとは比べものにならない別次元の味覚! 鶏胸肉、細切りたけのこ、大根、ゆで卵の入ったレッドカレーで、どの具材にも味がものすごい染みている! 中でも特筆すべきはタイカレー汁を吸った大根の食感! 固すぎず軟すぎず、舌で押しつぶせる程度に歯ごたえを残して茹でられた1.5cm四方のサイコロ切り大根が猛烈に旨い! 大根の臭みがほどよく抜けているのは恐らく下茹でを施されているからだろう。カレーに大根が合うなんて知らなかった! 大根に味がしみていて嬉しいのはおでんよりもタイカレー! 結構な量のカレールーが一瞬でなくなりあっという間に完食。メーヤウの辛口との出会いは、自分にとって嬉しいショック体験でした。ああ、幸せすぎる……。

メーヤウ辛口

「あの味を再現して自分で作ってみよう」

 1990年代初頭まだ学生でお金がなく、その後大学を出てからもその日暮らしのフリーターにも関わらず中古シンセサイザーをバカ買いしローン地獄&サラ金からキャッシングしてまで女子プロレス観戦三昧だったおかげで早々に借金生活(※『耳マン』で以前連載していた『男の!ヤバすぎバイト列伝』ご参照くださいホントに酷いんで)。美味いものも月に一度食べられたらいいほう。しかし、どうしてもあのメーヤウの辛口を思い出してしまう……食べたい……でも金が無い……。そこで思いついたのが、
 「じゃあ、メーヤウの味を再現して自分で作ってみよう」。
 ココナッツミルクも大久保なんかの安いところに行けば400ml缶が200円ぐらいで買えるし、タイカレーのスパイスもメーヤウでお土産で売ってたタイのメープロイ社のカレーペーストを使えば近いものができそうだと。そこから自分用に作っては食べてを何度も繰り返し、10数年前に現在のレシピが完成。実は今回、『耳マン』編集部からの記事オーダーが「新生活を始める若い読者のために自炊レシピを!」だったのですが、使用するのがココナッツミルクやらナンプラーやらタイカレーペーストだったり、材料がその辺に売ってるものではなくハードル高くて申し訳ないです! しかもいつも自分が作る分量がココナッツミルク2リットル使用でもんのすげえ大量ですんません! あの、俺これしかできないんで! 実際作るときは分量半分に減らすとかでなんとか対処していただければ! ひとり暮らしを始めた若者が家でひとりで作ったら食べきれなくて泣くぐらいの量でレシピ公開! もういい、〆切10日以上過ぎてんだ何も考えずいつもの量で書きまーす!


<メーヤウ辛口風タイカレーの作り方>

(※編注:筆者が独自に研究したオリジナルレシピで、お店とは無関係です)

【材料】(メーカー、および内容量はいつも使ってるもの。他メーカー品に代用可)
・レッドカレーペースト(メープロイ400gボトル。多分使うのは130g程度)……1個
・ココナッツミルク(リアルタイ、ロイタイ、チャオコー どれでも可)……2000ml
・ナンプラー(ティパロス 700mlボトル。使うのはお玉2杯分程度)……1本
・鶏胸肉……3枚
・大根……中1本
・たけのこ水煮(細切り)(130gパック)……2袋
・生姜……小1かけ
・ローレルの葉(別名月桂樹、ベイリーブス。なくても大丈夫)……1枚

【作り方】
1:大根の皮をむいて1.5cm四方のさいの目切りにして、臭みをとるため生姜の皮だけ入れてお湯で強火で下茹で。歯ごたえがシャリッとしない程度に柔らかくなったらザルにとって水を切る。生姜の皮は捨てます。
(※さいの目切りは大きくても大丈夫ですが、小さいほうが茹で時間が少しで済みます。下茹でとザルでの水切りをちゃんとやって水気をできるだけ切っておかないと、大根臭かったり水っぽかったりしてマズくなります。要注意。時間が経つと大根からさらに水が抜けるので、俺は茹でた大根をココナッツミルクに投入する前にもう一度水切りしています。面倒くさくてすみません!)

2:大根を茹でている間に鶏胸肉の皮を取り、細かく刻みます。大きさはさいの目切りにした大根よりひと回り小さいぐらい。鶏挽肉を使うと味が変わってしまうので根気よく小さめに刻みましょう。
(※面倒くさければひと口大でも大丈夫です。メーヤウの辛口の鶏肉もひと口大ですし。「どっちやねん」という声、いただきました)

3:大きな鍋にココナッツミルク2000mlを入れます。冬場、脂分が固まっている場合はなんとかして塊を崩しておきましょう。

4:ココナッツミルクを入れた鍋に刻んだ鶏胸肉3枚分とたけのこ水煮130g×2袋を投入し、生姜のみじん切り1個分とローレルの葉を入れて沸騰するまで強火で煮ます。
(※ここ重要! たけのこ水煮の水はPH調整剤が入って酸味があるので袋の水を捨てて、3回ほどさっと水洗いして酸味を抜き、水気を切って使用してください)

5:沸騰したら5分程度中火で煮て具材に火を通していきます。灰汁が浮いてきたらお玉で丁寧に取り除きます。
(※実際にはどれが灰汁なのかココナッツミルクで真っ白でよくわかんないと思いますので、灰汁はそこまで入念に取らなくても大丈夫です。俺はあまり真面目に灰汁取りしません。「いい加減かよ」という声、いただきました)

6:具材に火が通ったら弱火にしてレッドカレーペーストを投入します。分量は400gの袋の3分の1くらいいつも入れてますので、ココナッツミルク2000mlに対しペースト100~130gぐらい? 季節によってココナッツミルクの脂分が変わったりするので、この辺は味見して辛さと塩加減が丁度いいところまで入れるようにしていて、レシピ化するのが難しいですが、ファンデーションで言えばライトオークルとオークルの間ぐらい? う~ん、味見して丁度よかったらそれでいいです!

7:ナンプラーをお玉で1杯分入れます。50mlぐらい?

8:先程下茹でしておいた大根を、水気をよく切って投入します。沸騰するまで強火にします。

9:沸騰後また弱火に戻し、さらに3分ほど煮込むとココナッツミルクの余分な脂分にカレーペーストの色がついて赤い油が浮いてきます。自分レシピ的にはできるだけ取り除いたほうが美味しいですが、実際メーヤウの辛口はこの赤い油もまんま結構な分量入ってますので、マイルドなのがお好みの方はできるだけ取り除き、こってりとしたのが好きな方は赤い油それほど取らなくて大丈夫です。これまでの経験上、メーカーにもよりますが、夏場のは油が少なく冬場のは鍋の上1cmぐらい大量の油が浮きます。で、取った油はもったいないですが捨てます。いつも300mlぐらいは捨ててるかも。
(※固めてゴミ箱に捨ててます。排水口に流すの厳禁!)

10:仕上げにナンプラーをお玉でもう一杯(多分50ml)追加してひと煮立ちさせたら完成。
(※大根が塩気を吸うので、煮込めば煮込むほど塩味が薄くなってきます。味が薄いようならその都度ナンプラーを少量足してください)

<その他>
※メープロイのレッドカレーペーストは50gの袋入りもよく売っているようです。
※ココナッツミルクは通常1000ml紙パック入りのものを2個使用。400g缶入りに比べ脂分が少ない気がします。
※ナンプラーはティパロスのが安くて量があって美味しいです。
※カレーペースト、ココナッツミルク、ナンプラーはネット通販でも手に入ります。俺が言うまでもないですが、サイトによってかなり値段が違うので要注意。
※自分で作るときは隠し味として砂糖を小さじ1杯程度入れます。結果、塩気がかなり強いメーヤウの辛口とは別物になってますが。

掟ポルシェが作ったタイカレー。定期的に開催している『スナック掟ポルシェ』で食べられます!

 1990年代中盤、メーヤウは信濃町駅から徒歩数分の地下の店に移転。バラック小屋時代は慶応医学部のお客さんが多かったためか夏休みと冬休みが1ヶ月ずつぐらいありましたが、移転後は基本日曜祝日定休でコンスタントに営業するように。最初食べたときは激辛に感じた大辛も食べ慣れたらすんなりいけるようになりました。多くのお客さんが看板商品である大辛(メーヤウカレー)を注文しますが、自分はいつも辛口(レッドタイカレー)と牛すじ煮込みそば(小)のセットを頼みます。このそばがベトナムのフォーなんですけど、これがまた美味くてですね……おっと、そんなことまで言及すると1万字とか行っちゃいそうなので今回はここまで。

メーヤウ辛口と牛すじ煮込みそば小
メーヤウは信濃町のほか早稲田や長野県松本市にもあったりしますが、現在信濃町店と信濃町以外のメーヤウは無関係とのこと。それぞれの店にファンがついているようです

掟ポルシェ 今後の予定

グッズ通販サイト開設予定! 詳細は掟ポルシェTwitterをチェック!!

掟ポルシェ

おきてぽるしぇ●1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン・ファイブ)、『出し逃げ』(おおかみ書房)、『男の!ヤバすぎバイト列伝』(リットーミュージック)、『豪傑っぽいの好き』(ガイドワークス)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど活動は多岐にわたるが、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。