【掟ポルシェの食尽族】第12回:掟料理に欠かせない“ちょっといい調味料”

連載・コラム

[2020/6/29 12:00]

自称「食べもののことになると人格が変わる」ほど食に執心する“食尽族”でミュージシャンの掟ポルシェ(ロマンポルシェ。、ド・ロドロシテル)が、実際に食べてみて感動するほど美味しかったものや、はたまた頭にくるほどマズかったもの、食にまつわるエピソードについて綴る連載。読んで味わうグルメコラムがここに!


第12回:掟料理に欠かせない“ちょっといい調味料”


「さしすせそ」だけでは料理は美味くならない!

 家の料理は全部自分で作る派の急先鋒・掟ポルシェです! 俺以外何人たりとも台所へ入ってはならん! おい嫁、人が料理しようってタイミングでコンタクトレンズ洗うな! 子ども、ねるねるねるね作るだけなのに水道の蛇口全開にすんな! あっちいけコラ! (アメフトの防具を纏い手にはトゲトゲの金棒を持ち目をギラギラさせて)ふ~っ、しつこい奴らを追っ払ってやったぜ……というわけで、今回は料理に欠かせない調味料の話です(最低)。
 料理の基本、調味料は「さしすせそ」。もうご存知ですね。……はい、そこでうなずいたお前とお前、一刻も早く台所から撤退せえ! あのね、もう21世紀になって19周年とかですよ? さ(砂糖)し(塩)す(酢)せ(せうゆ=醤油)、そ(味噌)だけしか揃えず美味いもん作ろうったってアータ、そんなんできたら天才ですよ。無から有を生み出すくらいのレベルですそれ。錬金術じゃないんだから。さしすせそプラスアルファ程度しか調味料を揃えず「料理が上手く作れない」とか言う方いますけど、そりゃあね、ちょ~待てよ~(キムタクと中島みゆきを合体させたときのトム・ブラウンみちお風に)と。土台無理だからまぁ落ち着けと。

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 さしすせそプラスアルファの範囲が狭い奴の料理には、大体期待できないもんです。某クックパッドもよく見るんですが、あれってかなり当たり外れがありますよね。で、ハズレ料理のレシピによくあるのが、「めんつゆ」を入れるやつ。もうね、「めんつゆ」って書いてあった時点で鼻で笑ってそっ閉じですね。醤油のほかに甘みと出汁気がプラスされてるもの入れりゃなんでも美味くなる!的な発想のやつは何やらせてもダメ、あーダメダメ。このタイプは女性器いじらせても無遠慮にガシマンするに決まってます。すべてが雑。まぁね、言ってることの意味はわかるんですけど、ひと口にめんつゆと言っても各メーカーによって味が全然違うわけで、その微妙な味のバランスを一切無視して、レシピにただ「めんつゆ」と記載してあまつさえ人目に触れるものとしてアップできるその根性が気に入らないっちゅうかね。少なくとも俺は「料理にめんつゆ万能説」を一切信じない(あ、一応言っとくとそうめんには桃屋のつゆ派です。めんつゆ自体に罪はない)。

 さしすせそプラスアルファよりできるだけ遠くに味覚を求めると、食生活は驚くほど豊かになります。ならば、もうおわかりですね。現代にあって、料理を上手く作るのは、実はそれほど難しいことではない。そう、

“美味い調味料を買ってくればいいんです!”

 ……いや、バカみたいな物言いで恐縮ですが、マジで現代の調味料の完成度の高さはとんでもないことになっているわけで、それらを取り揃え、時に複合して使用するだけで、大体の料理は上手くできます。ってことで、自分が料理を作るのに欠かせない“ちょっと美味しい調味料” を、いくつかご紹介したいと思います。

醤油 …… 【 だし醤油 (鎌田醤油) 】

 まずは出汁気のある醤油として使い勝手が良くて美味しいやつを。鎌田のだし醤油は、うどん県として知られる香川県で1789年創業した鎌田醤油の定番主力商品。醤油にさば節、かつお節、昆布の一番だしと、適切な量の甘味料をブレンドしたもので、甘い醤油が大の苦手な自分にとってもこの甘味と旨味を決して混同しない風味の豊かさは、美味い醤油の最適解としてすでにマスターピースです。1番の食べ方は茹で上げた讃岐うどんの上にそのままかけ回しただけのシンプルなやつ。これがないともう讃岐うどんは食べられません。あとは、卵かけご飯。各社で出されている卵かけご飯専用の醤油がなんだったのかと思うほど、卵かけご飯にもピッタリです。鎌田のだし醤油がない環境で卵かけご飯を食べるとそれだけで損した気持ちになるほど。もう鎌田のだし醤油なしでは生きてはいけない体になっているのです。
 煮物にも使えないこともないかと思いますが、どちらかといえばシンプルにそれだけをかける使い方がオススメ。よくやるのが、豚ロースと獅子唐と椎茸の細切り炒め。それぞれの具材を細切りにして個別に強火で炒め、混ぜ合わせて最後に鎌田のだし醤油を適量回しがけるだけでなんじゃこりゃ!というぐらいパーフェクトな料理が完成します。「料理にはめんつゆ派」の方にも、この出汁気と旨味の理想的な複合バランスは歓迎されることでしょう。普通の醤油の倍くらいのお値段でちょっとだけお高いですが、鎌田のだし醤油を舌が知ってしまったら倍値なんて全然安いと感じるようになります。最近では知名度も上がり、ちょっといいスーパーだと置いてるようになってきました。もうね、あんまり美味しいんで、寝てる間くるくるストローでちょっとずつチューチュー吸い続けていたいぐらいですよ。自分の腎臓が許せば。

辣油 …… 【 潮州辣椒油 (李錦記) 】

 これもないとお話になりません、李錦記の潮州辣椒油。デカいボトルで買っても一瞬でなくなりますね、なんせ美味いから。食べるラー油ってのが一時期ちょっとしたブームになりましたけど、これも焦がしにんにくと唐辛子が個体でふんだんに入っていて、辛さだけでなく旨味を加える調味料として優秀すぎます。
 いささか大袈裟な表現で失礼しますが、この辣油との出会いは10年くらい前に通っていた南阿佐ヶ谷の中華料理店『潮州』(現在は荻窪に移転)でした。当時“黄金のもやし炒め” なるメニューがあり、場末の居酒屋じゃあるまいし、もやし炒めごときがオススメメニューとはどういう了見だ?と訝しげに注文。いや、これが実際食べてみたところですね、もやし炒めUltimate Versionとでもいいましょうか、粗食の食材代表みたいなもやしが完全無欠の高級料理に変わっていて、すっっっっごい美味かったんです! 干し貝柱のスープで炒めた歯ごたえのシャキッとした豆もやしに、卓上にある魔法の小瓶から辣油をひとすくいかけただけのシンプルなものなのに、涙が出るほど美味かったと。『潮州』にはこの辣油をかけて味が完成する料理が何品かあるんですが、あまり美味い辣油だったので、帰りしな「あの、この辣油だけ買えたりしませんか?」と聞いてみたところ、お店の方から「これは李錦記の潮州辣椒油なので、市販されてますよ」と教えていただいてビックリ&感涙。すぐさま新大久保に向かい、中華食材屋で335g入りのボトルを購入しました。もうね、本当に何にかけても美味い。よくやるのはカップ焼きそばのUFOに大さじ1杯ブチ込んで食うやつ! ただでさえオイリーなUFOに潮州辣椒油を追いオイルしてギットギトにして食うハイカロリーの極み食になっちゃうわけですけども、家に常にUFO常備する程度には狂いますね。あとは中華の炒めものを塩味系で作った上にかけるとなんでも潮州辣椒油の味になっちゃいますが、美味いんでそれでいいです。美味いは正義。何にでも合いますが、味の主張が強い調味料だけに、焼餃子だけはこちらではなくシンプルな辣油の方がいいかと。
 李錦記の潮州辣椒油335gボトルは中華食材の専門店にいかなければなかなか手に入りませんが、同じものの少量サイズが“李錦記具入り辣油”として85g入りの小さなボトルで商品化、やはりちょっといいスーパーには置いてます。まずはそっち買って試してみては? ま、そんな量、すーぐなくなっちゃいますけどね!

胡椒 …… 【 生胡椒 (アパッペマヤジフ) 】

 ちょっといい調味料、最後は胡椒です。東京・祐天寺の工場で、1本1本手作業で瓶詰めされているアパッペマヤジフの胡椒は、スリランカ原産。スリランカの海塩で時間をかけて塩漬けされた生胡椒は、胡椒独自の風味が生の状態故ハンパなくフルーティーなことになっており、そのまろやかな塩味と相まって「胡椒ってこんなに美味しいんだ!」とショックを受けることでしょう。その辺の香辛料のコショウの超豪華版といった趣で、もう胡椒が持つ香辛料としての意味合いをちょっと超えて少し麻薬的ですらあります。お値段も20g入りの小さなボトルが750円というとちょっといいお値段に思われるでしょうが、調味料と考えると多少お高い感じでも、麻薬と考えると「こんなに安くていいの!?」と得した気分になります。そしてなんといってもこちらは合法。ひと振りするだけで味の天国へ羽ばたけるのだから断然安いのです(あまり良くない宣伝文句)!
 モノが胡椒なので、基本どんな料理にかけてもしっくりきます。パスタはもちろん、白だしを使った和食の煮物なんかにかけたりしてもいい。なんの料理にかけても瞬く間にその料理のプレミアムVersionにしてくれる、魔法の生胡椒なのです。むしろこれ単体で食べてもいいおつまみになると思います。そのぐらい芳醇。
 我が家では嫁がお世話になっている方から贈答品としていただいたのが最初でした。もうね、これをプレゼントに選ぶセンスの良さに、その方のことを軽く尊敬したほどです。「俺も真似しよう」と強く思いました。できる男はワンランク上の調味料を贈りものにする。これっスわ。

 というわけで、以上3点、ちょっといい調味料をご紹介させていただきました。どれも多少いいお値段で、ご家庭への導入を躊躇われるでしょうが、買ったが最後「もうこの調味料なしではいられない!」となってしまうことうけあいなのです。自己責任でひとつよろしく!

鎌田のだし醤油900ml瓶。よく売られているのは小さい200ml紙パックのやつですが、一瞬で使い切ってしまうのは目に見えているので我が家はこのサイズで常備。これでも4ヶ月ぐらいしか持たない。そんくらい美味い
李錦記の潮州辣椒油355gボトル。辛さもそれなりにありますが旨味のほうが強いです
アパッペマヤジフのソルティペッパーSmoked20g。写真撮ろうと思って調味料BOX見たら生胡椒全部使っちゃってこれしかなかった。こちらは乾燥してますが、それでも香り高くて目が覚める美味しさです。また買わないと!

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掟ポルシェ

おきてぽるしぇ●1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン・ファイブ)、『出し逃げ』(おおかみ書房)、『男の!ヤバすぎバイト列伝』(リットーミュージック)、『豪傑っぽいの好き』(ガイドワークス)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど活動は多岐にわたるが、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。