こんな調子で果たしてバンドは上に行けるのか?(大阪・我孫子 その3)〜劔樹人【あの街に鳴る音】第14回〜
エレクトロダブバンド・あらかじめ決められた恋人たちのベーシストで漫画家の劔樹人が、これまで住んできた街の思い出と、その頃の心情を綴るノンフィクション連載。リリカルな作風で人気の彼が、エモさたっぷりにお届けします。
疑問を感じながらのバンド活動
音楽で生活していくため、人生を賭けて真剣になっているとはいえ、基本はバンドなんて楽しくやれるものだと思っていた。
平日はフルタイムで働き、土日にそれぞれ10時間くらいスタジオで練習する日々。それがクリエイティブな苦労であれば、まだ楽しい範囲内だったかもしれない。
しかし、私たちのスタジオのだいたいの内訳はこうである。
このときは、これから先の時間のことを思うとものすごく憂鬱なのである。
リーダーは遅れてくるにも関わらず、のっけからなぜかいつも機嫌が悪い。一体何に怒っているのか皆目わからない私たちは、腫れ物に触るように恐る恐る音を出し始める。
何に怒っているかが判明。誰かが吊し上げられることになる。自分ではないと、とてもホッとする気分になる。
が、意味不明の飛び火があるので気は抜けない。
のっけから練習は中断である。懇々とNさんの説教が始まる。
2時間くらい説教が続くとリーダーの態度は次第に軟化し、「それでもお前に期待している、一緒にがんばろう」という方向に話は変わっていく。
あとから思うと、これは完全にDVによる洗脳の手口である。
予定の時間から4時間くらい経って、ようやく本格的な練習が始まるものの、だいたい今まで完成したと思っていた曲を作り直す作業となる。
時には、同じフレーズをぶっ続けで2時間弾き続けたこともあった。我ながらとんでもない忍耐力だと思う。
こんな週末を毎週繰り返すのである。
4年間で5曲しかない曲はライブをやるたびに構成が変わり、決して定着することはない。普通にちょっと飽きている気持ちも大いにある。こんな調子で果たしてバンドは上に行けるのか? いささか疑問を感じるタイミングは日に日に増えていった。
それでも、ライブの本番は楽しかった。演奏していると生きている実感を感じ、ずっとステージで演奏していたいと思えた。ステージで見るいつも怒ってばかりのNさんはカリスマ性があり、そのたびにやっぱり着いていきたいと思い直したのだった。