バンドに大太鼓担当のメンバーが加入(大阪・長居 その10)〜劔樹人【あの街に鳴る音】第10回〜

連載・コラム

[2023/7/4 12:00]

エレクトロダブバンド・あらかじめ決められた恋人たちのベーシストで漫画家の劔樹人が、これまで住んできた街の思い出と、その頃の心情を綴るノンフィクション連載。リリカルな作風で人気の彼が、エモさたっぷりにお届けします。


第10回:バンドに大太鼓担当のメンバーが加入


にわかには信じられないほど音の大きいバンド

大太鼓がメンバーにいるバンドをあなたは見たことがあるだろうか?

20年以上前、ふたり組音楽ユニットセンチメンタル・バスの鈴木秋則さんが、『Sunny Day Sunday』という大ヒット曲で大太鼓を叩いていたことを思い出すのは30代以上だろう。あれは1990年代の、音楽業界にお金があった頃のメジャーなバンドのパフォーマンスである。これからライブハウスでがんばって活動していこうというバンドが持ち回る機材として、大太鼓が持つ破壊力を想像できる人は少ないのではないか。

とにかく、大太鼓は甲子園球場でPA機器を通さずあれだけの音を出している楽器である。あんなものを、12畳や16畳ほどの練習スタジオで打ち鳴らすのだ。

普通にしていたら負けてしまうので、力の限りドラムを叩くようになる一平。そして、私のベースのボリュームも大増量、Nさんのシンセはほっといてももともと大爆音ノイズ大会開催中!

私たちのバンド・Yは、にわかには信じられないほど音の大きいバンドになっていた。

今でこそ、人が音に迫力を感じるのは、それぞれの楽器の音がぶつかって打ち消しあったりせず、空間に過不足なく鳴っていることであると理解できるのだが、当時の私たちはそんな音響的論理は理解していない。

ただただ、お互いの音を打ち消し、被さり合いながらも混ざり合い、混沌とした騒音を生み出す、そんなバンドとなっていた。

そんなバンドのトレードマークとなる大太鼓を演奏していた大王という男は、私のひとつ後輩、一平と同期の軽音楽部員であった。

ビザールなカリスマ性を持つ新メンバー

新入生のとき、ただ校内を歩いていた彼は、Nさんになんとなく目をつけられ、無理やり軽音楽部に入れられた上に、頼んでもいないのに強そうなあだ名をつけられた。

私のその頃の大王の印象といえば、口数も少なければ表情も乏しい、得体の知れない若者であった。もちろん楽器経験もなければ音楽に興味もないので、CDはDragon Ashとゆずしか持っていない。

それがいざ入ってみたら、Nさんの目は間違っていなかったのだ。大王はサークル内でそのビザールなカリスマ性を発揮し、音楽的素養も急激な進化を遂げていった。

いつも水色のジャージ上下(揃ってはいない)に水色の帽子を身につけており、チョビ髭にわざわざ鼻毛までたくわえているそのルックスは、学内を歩いている誰もがギョッとするような不穏なオーラをまとっていた。

そんな人物が大学を闊歩していてもただの嫌がらせにしかならないわけだが、難波ベアーズにはそれ以上に珍奇なミュージャシャンたちが集っていた。

我々と同時期、ベアーズには、肩に「オ●コ」とマジックで適当に書いたようなタトゥーの彫られた長髪の石井モタコ(オシリペンペンズ)、ライブ中盛り上がると緑色の液体(青汁)を吐き出す谷村じゅげむ(ワッツーシゾンビ)、ナチュラルに眉毛全剃りの砂十島 NANI(ZUINOSIN)など、どう見ても社会に馴染まない妖怪人間を擁する若いバンドたちが出演し始めていた。のちに、“関西ゼロ世代”として局地的にブームとなるバンドたちである。

私はそんな彼らに比べると箸にも棒にもかからないような凡庸な存在であったが、心の中では人と違う音楽をすることに執念を燃やしていたため、この“Y”の4人組ギターレスというスタイルはすごく気に入っていた。

しかし、飽くなき向上心を四六時中バンドに注ぎ込んでいるNさんは、まだ自分の思い描く音を出せていなかったようだった。

Nさんは、学年で私の4つ上(私が1回生の時すでに5年目)で、フォークソングクラブ所属だったTさんというギタリストを加入させることに決める。Tさんは長身のサウスポーで、見た目通りのジミヘン直系ギタリストであった。

さらにこの頃、一平が就職活動のため脱退。新たなドラマーとして、大学に入ったばかりの1回生、Hが起用されることになる。

このメンバーで、私の初めてのバンド・Yの活動は本格化していった。私は4回生になっていた。

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劔樹人

つるぎみきと●1979年5月7日生まれ、新潟県出身。「あらかじめ決められた恋人たちへ」「和田彩花とオムニバス」のベーシスト。2010年代にはロックバンド・神聖かまってちゃん、撃鉄、アカシックのマネージメントを担当。漫画家やコラムニストとしても活躍しており、2014年に発売された初の著書『あの頃。男子かしまし物語』は松坂桃李主演で2021年に映画化され、話題を呼んだ。