学園祭ライブでゆらゆら帝国をブッキング(大阪・長居 その8)〜劔樹人【あの街に鳴る音】第8回〜

連載・コラム

[2023/5/5 16:00]

エレクトロダブバンド・あらかじめ決められた恋人たちのベーシストで漫画家の劔樹人が、これまで住んできた街の思い出と、その頃の心情を綴るノンフィクション連載。リリカルな作風で人気の彼が、エモさたっぷりにお届けします。


第8回:学園祭ライブでゆらゆら帝国をブッキング(大阪・長居 その8)


BOREDOMSのライブが実現するような大学祭の実行委員に

バンドをやりたくて奮闘していた学生時代、私にはもうひとつ、熱心に取り組んでいたことがあった。

それは大学祭実行委員会である。

思えば入学したばかりのあの新入生歓迎祭のときに、心惹かれるものがあったのだと思う。決して盛り上がっているわけでもなかったし、むしろステージ企画など内輪感が強くて受け入れられない人も多そうな雰囲気だったが、私は当時からそういう「わかる人だけわかればいい」ようなものが好きで、そういうものこそ中に入って体験したくなるのである。

1998年、1回生の11月に開催された大学祭『銀杏祭』では、世界的人気を誇るバンド・BOREDOMSによるフリーライブが行われ、2,000人以上の動員があった。大学祭でBOREDOMSのライブが実現することなど、当時でも珍しいことだっただろう。

それ以前の年も、銀杏祭でライブをしてきたアーティストはFishmans、audio active、Buffalo Daughter、Super Junky Monkey etc……と、他の大学祭とは一線を画すオルタナティブなラインナップであった。それは、MRや軽音楽部から選出された実行委員がブッキングに関わっていたからである。私はMRに所属していた頃から、実行委員になりコンサート担当をやりたいと熱望していた。

その後私は、希望どおり大学祭実行委員となる。そして2回生となった1999年、コンサート企画の担当となった私は、さっそくコンサートのブッキングに動き出す。

当時、銀杏祭に協力してくれていたプロモーターは、SMASH WESTであった。『FUJI ROCK FESTIVAL』の主催であるコンサートプロモーター・SMASHである。

担当してくれたSMASHの岩井さんは27歳の気のいいお兄さんで、eastern youthのツアーマネージャーをやっている人だった。岩井さんとは、それから10年後、私が神聖かまってちゃんのマネージャーをしていたことで再会を果たす。

さらに、私が所属するバンド“あらかじめ決められた恋人たちへ”が2013年にeastern youthのイベントに出演した際も、岩井さんがイースタンのツアーマネージャーとして帯同しており、学祭の実行委員だった大学生の私は、10数年を経てアーティストとして関わることができたのだった。

さて、話は戻って1999年の春、BOREDOMSを超えるようなインパクトあるブッキングに悩んだ私は、岩井さんへアメリカのロックバンド、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンへの出演オファーをお願いする。しかし、「海外アーティストは契約感覚が日本のアーティストと違うので、キャンセルになるとたまらないからやめましょう」と岩井さんに諭される。今思うと当然のことである。

私を使って自分の好きなアーティストを見たい音楽系サークルの先輩たちからは、いろいろプレッシャーもかかっていたが、最終的に自分の好きなアーティストにしたいと思った私は、3ピースバンド・ゆらゆら帝国のブッキングを岩井さんに打診。話はすぐにまとまり、1999年の銀杏祭はゆらゆら帝国のフリーライブが決定したのであった。

ゆらゆら帝国と初対面したときの衝撃

銀杏祭のライブ前日、新大阪の駅にゆらゆら帝国を迎えに行ったときのことは忘れられない。

ゆらゆら帝国は、メンバーと変わらないくらいパンチのあるマネージャーさんと4人でやってきた。

そして迎えた当日。朝から会場準備とリハーサルに忙しく過ごし、学内はコンサート目当てのお客さんで大混雑になっていた。開演を前に緊張の真っ只中、軽音楽部の部長であるAさんが私にこう言ってきた。

軽音楽部が学祭中に使っているライブハウスの教室は、アーティストの楽屋となる会議室のすぐそばだったのである。軽音楽部は前年も、BOREDOMSのメンバーの別バンドをわざと部員に演奏させて本人に聴いてもらうという悪ふざけをしており、味をしめていた……。

確かに私は、その夏の軽音楽部のイベントでゆらゆら帝国のコピーをしていた(ドラムは越後屋の阿佐田亘くん)ので、やってできないことはない。Aさんに押し切られる形で私はコンサート担当の職場を放棄し、ギュウギュウになった教室でゆらゆら帝国の楽曲を演奏した。

正直、演奏は決して悪くはなく、本物のゆらゆら帝国を観にきたお客さんにも余興的に喜んでもらえたのではないかと思う。その後私は仕事に戻り、本物のゆらゆら帝国の演奏は大いに盛り上がって大成功で無事終了。

最後に集合写真を撮るというとき、マネージャーさんが私にこう声をかけてきた。

それから時が流れて2010年のある日。とあるライブハウスでこんな出来事が起こる。

SMASHの岩井さんと同じく、清水さんともその後一緒に仕事をすることがあったりと、今も交流が続いている。

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劔樹人

つるぎみきと●1979年5月7日生まれ、新潟県出身。「あらかじめ決められた恋人たちへ」「和田彩花とオムニバス」のベーシスト。2010年代にはロックバンド・神聖かまってちゃん、撃鉄、アカシックのマネージメントを担当。漫画家やコラムニストとしても活躍しており、2014年に発売された初の著書『あの頃。男子かしまし物語』は松坂桃李主演で2021年に映画化され、話題を呼んだ。