今の季節にピッタリ! ファラオの音楽性癖に刺さったアルバム〜平井“ファラオ”光のB’zコラム『がんじがらめかといえばそう』第5回〜
バラエティ番組『アメトーーク!』の『B’z芸人2023』にも出演し、音楽好き&B’zファンとして知られる平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)がB’zの魅力についてひたすら綴る連載! 毎月第2・第4金曜日の正午に更新!!
ファラオが1番好きなB’zのアルバムは?
どうも、オモシロヒゲメガネです。
今回はB'z好きとしてよく聴かれる、「オメーが1番好きなアルバム、曲は?」という質問に答えたいと思う。
これは確かに自分でもよく考えることだが、毎度考えた結果導き出される答えはひとつ、「時による」。これはもう仕方ない。何しろ長い歴史のなかで数ある名盤名曲があり、そのどれもが高いクオリティを持つ曲ばかりなので、ずば抜けたアルバム、曲というよりは、そのときの自分の気分やら感性によって1番は入れ替わるのだ。
ただ強いて言うなら、好みや思い入れなども加味したうえで、常に上位にいるアルバムや曲というのは確かにある。
そのなかからあえてひとつ挙げるとすれば、『FRIENDS II』(1996年)がそうである。
これは正式にはミニアルバムだが、間違いなくB'zの全作品のなかでも常に自分の中ではトップクラスにおり、むしろ歳を重ねるごとにさらに好きになっていっているアルバムでもある。
もともとは「冬」をコンセプトとしたミニアルバムシリーズとして1992年にリリースされた『FRIENDS』の続編であり、B'z自体がハードロック路線全開の時期にあって、ジャズやボサノヴァ的アプローチを見せるアダルトオリエンテッドな作品だ。
LUNA SEAのアルバムかと思うようなジャケットの時点で普段のB'zとは違うのがわかると思うが、ファルセットを多用した稲葉さんのヴォーカルや、一切歪ませない松本さんのギターなど、新鮮味も出しつつコンセプトに溺れない少数精鋭の質の高い楽曲たち。
オープニングの『FRIENDS II』はインスト曲。『FRIENDS』でも短いインストのタイトル曲をオープニングに持ってきていたが、ストリングスのアンサンブルでヨーロッパの可愛らしい街並みを想像させる『FRIENDS』に対して、『II』はギターのみで、暖炉の前でほっと温まっているような光景を想像させる。
『SNOW』は『FRIENDS』でいうところの『いつかのメリークリスマス』の位置だが、あれほどの国民的知名度を持つ曲には到底なり得ない曲。まずいきなりのファルセット披露で初めて聴いたときは稲葉さんじゃない誰かが歌っているのかと思った。構成的にも『いつかの〜』のようなドラマチックなストーリーがあるわけでもなく、楽曲として大きな山場があるわけでもない、どこか未完成にも思えてしまう曲だが、不思議なもんで大人になるとどんどん自分のなかで味わいが増していく。そして短いながらもギターソロが秀逸。
『傷心』は『FRIENDS II』においてのわかりやすい目玉曲。もっとも普段のB'zに近いタイプで、余裕でシングル化できるクオリティ。むしろシングル曲よりも良いくらいだ。音はAORだが稲葉さんのキレの鋭い声とシャウトでハードロック味が増している。アウトロくそかっこいいよ。
『sasanqua 〜冬の陽』は松本さんのギターインスト。個人的に『FRIENDS II』でもっとも美しいメロディを持つ曲だと思う。総じて『FRIENDS II』は松本さんのギタープレイの素晴らしさも特筆すべきところ。
ラストの『きみをつれて』。B'zの全バラードのなかでも最高レベルだと個人的に思っているこの曲の存在だけでも『FRIENDS II』の勝利は決まっていたのだ。レゲエのリズムを取り入れた立ち上がりはややポップさも感じさせ、サビに入っても露骨に泣かせにくるわけではなく、あくまで哀愁(ファラオの音楽性癖)漂う雰囲気にとどめ、アウトロのギターソロで最大の盛り上がりを見せる構成。そして最後の最後に優しく響くピアノの独奏。ありがとうございます。
いち表現者としても学ぶことの多い作品
総じてこの『FRIENDS II』の素晴らしさの要因は、「空気を描く」ことに成功しているところだと思う。「冬」というコンセプトの性質上必然的に意識するところではあると思うが、音から冬の冷気を感じとれたり、さまざまな風景が自然と見えてくる。つまり一種の絵画としての楽しみ方もできるわけである。
この「空気を描く」というテーマは、それこそ絵画の世界でも昔からよく課題として取り上げられてきた。やはり表現に向き合う者なら、必ずどこかで目に見えないものを描くという領域に意識が向くことになるのかもしれない。
僕も笑いという形で常にそれを意識するようにしているが、この『FRIENDS II』をはじめとした空気を描く系の作品がその重要なインスピレーション元になってくれていることは間違いない。
なので『FRIENDS II』は単純にいちリスナーとして好きな作品であると同時に、いち表現者として学ぶことも多いという意味で、自分にとってとても重要な作品なのである。
そういえば今冬じゃない。なおさらちょうど良いじゃない。
というわけで温かいおコーヒーでもいただきながらこの名盤をどうぞ。
次回は好きな曲について。これまた難しい。