人気脚本家・秦建日子と密な音楽トーク! 初監督作品『クハナ!』に込めた音楽愛&郷土愛

特集・インタビュー

[2016/8/30 18:00]

放送中の人気ドラマ『そして、誰もいなくなった』の脚本ほか、『アンフェア』『ドラゴン桜』など数々の話題作を世に送り出す脚本家・小説家・演出家の秦建日子。そんな秦氏がついに映画監督デビューを果たした。注目の初監督作『クハナ!』は、三重県桑名市に住む小学生たちがジャズの演奏をとおして成長していく様子を描いた青春音楽映画。ここでは、同作の魅力をお伝えするとともに、自身も楽器プレイヤーである秦氏の“ミュージシャン”としての素顔にも迫るべくインタビューを敢行! 本記事を読んだあとに映画を観れば、もっともっと楽しめること間違いなしです!
<耳マンのそのほかの記事>


チック・コリア『スペイン』をひとりで全パートやりたい

――今日は秦さんに音楽のお話をたっぷりと聞かせていただきますね。

こんな風に楽器を持って撮影したのも初めてですし、ミュージシャンになった気分ですよ(笑)。

――よろしくお願いします(笑)! さて、初監督作品『クハナ!』は秦さんの音楽愛、楽器愛が詰まった作品に仕上がっていますが、そもそも音楽を聴き始めたのはいつ頃だったのですか?

小学校のときに近所の女の子がクラシックギターで『禁じられた遊び』を弾いているのを聴いて、すごくカッコいいと思ったんですよね。めちゃくちゃベタな曲ですけど(笑)。それで中学生になったときに僕も『禁じられた遊び』を弾きたいと思って、クラシックギター部に入ったんです。結局、2週間くらいで弾けるようになって「こんなに簡単だったのかよ!」ってなりましたけど(笑)。

――2週間なんて、優秀じゃないですか!?

かなり凝り性なので、1日5〜6時間練習してましたからね。

――リスナーとしてはどんなアーティストを聴いていたのですか?

ちょうど中学校くらいのときにレンタルレコード屋さんができ始めて、ビートルズのアルバムを全部借りてきてテープに落とす、みたいなことをしてましたね。懐かしいです……。

――ビートルズに最も影響を受けているんですか?

そこまでマニアックに聴き込んでいる感じではないですけど、やっぱりビートルズは好きですね。で、高校生くらいになるとほかの人とは違う音楽を聴きたくなるじゃないですか。それで高中正義とかカシオペアとかを聴き始めるんですよ。まわりのみんなが歌ものとかアイドルを聴いてるとき、「俺はインスト聴いてるぜ!」みたいな感じで(笑)。スパイロ・ジャイラとかシャカタクとかも好きだったなぁ。でもクラシックギターじゃそういう曲は演奏できないから、エレキベースを買ってチョッパー(スラップ)を練習して。カシオペアの『ミスティ・レディ』とか『ルッキング・アップ』とか、いろいろ挑戦したりしてました。

――おぉ、ベースも弾くんですね。

ウクレレをやっている知人の影響で、数年前からはウクレレも始めたんです。ピックが苦手なのでちょうど良いんですよ。練習していくうちに、やっぱりジェイク・シマブクロとかテクニック系が好きになっちゃいましたけど(笑)。それでウクレレをやっているうちにウクレレにもべースがあるって知って弾いてみたり、ギターの練習もまたしっかりやるようになったり、4〜5年くらい前から楽器熱が再燃してるところです。

※秦氏が持参してくれたのは、コンパクトなボディながらも本格的な低音を奏でることができるSeilen製のMobile Mini Bass EMB。非常に大切にしている1本だという。『クハナ!』劇中でベースを担当する女の子もEMBを使用しているので、そのサウンドもチェック〜!

――バンドをやったりもしているのですか?

今からバンドをやるっていうのはやっぱりハードルが高いですよね。でも、YouTubeでいろんな楽器をひとりでやってるミュージシャンの動画を観て、こういう風に多重録音でやるのって楽しそうだなって思って。それで、クラシックギター部のときの最難関だったチック・コリア『スペイン』をひとりで全パートやってみようと。ピアノとドラム(カホン)にも挑戦してるんです。

――“ひとりスペイン”……すごい! 楽器もたくさん持っているということですよね?

エレキギターはギブソンのES-335とフェンダーのテレキャスター、あとはタカミネのアコースティックギター、ウクレレはテナーとコンサートと8弦のタイプ、ウクレレベースもあります。ほかにもテナーサックスとアルトサックス、カホンも……。

――めっちゃありますね(笑)。

集めちゃうんですよね(笑)。

自分のなかで一番悔いがないテーマでいこう

――CHEMISTRY『キミがいる』(2005年)、鈴木雅之&島谷ひとみ『ふたりでいいじゃない』(2007年)などでは作詞も手がけていますが、作詞の勉強などもしてきたのですか?

音楽理論もそんなに勉強していないですし、作詞に関してもまったくですね。作詞家として活動しているわけではなくて、自分が書いた作品の主題歌を作詞するっていうパターンが多いので。作品のなかで言いたいことを、歌にそぎ落としていく作業をしている感じです。

――本当に音楽・楽器がお好きだということが伝わってきますが、初監督作品では音楽をテーマにしようと決めていたのですか?

1本目の映画ですし、これがコケたら次はないだろうってことで、自分のなかで一番悔いがないテーマでいこうっていう気持ちはありました。さらに今作は町興しの願いも込めた作品(=地方創生ムービー2.0/詳細は記事下にて)なので、みんなが映画を観終わったときにハッピーな気持ちでいっぱいになる、ポジティブな気持ちでいっぱいになるっていうものを作りたいなと。そう思ったときにやっぱり音楽が真ん中にありました。

――子どもたちの演奏シーン、本当にハッピーな気持ちになりました。

全部、子どもたちの本当の演奏なんです。楽器経験がない子ももちろんいましたけど、今作に向けて半年間、猛特訓して。最初は正直「大丈夫かよ……」っていう感じでしたけど、みんな本当に楽しそうに演奏してるんですよね。そこで僕が映画のために介入しすぎると、「楽しい」から「ツラい」に変わっちゃう。「ツラい」とか「お仕事」になっちゃうと大切なものが消えてしまうと思ったので、多少ミストーンがあったとしても「音楽を奏でるって楽しい!」「セッションするのって楽しい!」っていう気持ちで演奏してもらうように心がけました。子どもたちが県大会を突破するシーンがあるんですが、その演奏シーンなんて吹き替えも使ってないし、本当にその場で演奏したものなんですよ。

――「一発録り」ってやつですか。

そうです、一発録り。予算がなかったからってのもあるんですけどね(笑)。やっぱりミストーンもあって、演奏後に僕が「これでOK!」って言ったら「わたし間違えた!」とか言う子がいるんです。でも、そういうのもひっくるめて「せーの!」で一番最初に出てきた音が本物なんじゃないかなって。10回も20回もレコーディングしてキレイな演奏が録れても、それって嘘くさいじゃないですか。

――この話を聞いてから演奏シーンをもう一回観たいですね。秦さんも彼女たちの成長にさぞかし感動したのでは……?

本当に感動しましたね。役者の世界では「役が役者を育てる」っていうのがあるんですけど、今回は役ももちろん、「半年後、自分たちが人前で演奏するんだ!」「スクリーンにそれが残るんだ!」っていうところもあったので、すごい集中力で練習してくれたと思います。3年ぶんくらいの成長を半年で駆け抜けてくれたっていう感じでしょうね。

――さて、映画監督としての今後の展望を聞かせてください。

今作は町興しをテーマにこういう映画を1本作れたので、このやり方をもっと展開していけたらと思っています。日本全国のいろんな町に行って、その町ならではの映画を作って、結果的に日本のいろんな町を活性化していくお手伝いができたらいいですね。あと、『クハナ!』で登場してくれた6年生の子たちが、この街で育って、中学3年生くらいになったときにまた映画を撮ってみるとか。音楽を辞めてしまった子もいるだろうし、辞めざるを得なかった子もいるだろうし、プロになりたいと思う子もいるだろうし……成長した彼女たちを主役にした作品をまた撮れたら嬉しいですね。

――最後に、秦さんにとって「音楽」とはどういうものか聞かせてください。

言葉って嘘をつこうと思えばつけますけど、ハッピーなミュージックは本当にハッピーであって、嘘がない。きな臭い世の中ですけど、純粋に平和に人が集まっていくのに音楽が一番強い力になるんじゃないかなって気はしています。良い音楽を聴いて心がささくれ立つ人なんていないじゃないですか。そういう音楽の力を『クハナ!』でも感じてくれたら嬉しいです。

――今日はありがとうございました!

こちらこそ! あ……劇中で「チック・コリアのサイン入り」っていう設定のフェンダーローズ(フェンダー製のエレクトリックピアノ)が出てくるんですけど、誰かチック・コリアさんにこの映画のことを伝えてくれないかなぁ。「あなたの大ファンがこんな風に映画を撮って、勝手にサイン書いてますよ!」って。誰かよろしくお願いします(笑)。

【プロフィール】

はた・たけひこ。1968年1月8日生まれ、東京出身。早稲田大学法学部卒業後、金融会社の社員として働きながら、劇作家つかこうへいに師事。1997年に脱サラし、専業の作家活動に入る。代表作は『天体観測』『共犯者』『ドラゴン桜』『ジョシデカ!』(ドラマ脚本)、『チェケラッチョ!!』『アンフェア』(小説/両作ともに映画化)、『月の子供』『タクラマカン』(舞台)など。


地方創生ムービー2.0とは!?

地元の予算、そしてキャスト&スタッフも地元中心で制作する地元密着型のスタイルと、日本全国に通用するメジャー感をあわせもった映画制作を目指す“地方創生ムービー2.0”。『クハナ!』はそんな“地方創生ムービー2.0”のコンセプトのもと生まれた作品だ。ここでは、同作のエグゼクティブプロデューサーである株式会社電通の中西康浩氏に“地方創生ムービー2.0”について話を聞いた。なお、中西氏ももともとはベーシスト。現在はビリー・ジョエルのコピーバンドのボーカルとしても活動する音楽好きナイスミドルである!

『クハナ!』はただの地方映画ではありません!

この映画は、「ただロケ地が三重県桑名市だった」というような単なる地方映画ではなく、秦監督と桑名市の人たちによって作られた映画です。地元のたちが「桑名市を盛り上げたい」と話していたところ、そのなかにたまたま秦監督のお知り合いがいて、監督と連絡をとったところからスタートしたわけですから。当然、資金面でのクライアントさんがいるような状況ではなく、本当にゼロのところから秦監督が加わり、地元の人たちの「映画を作って桑名市を盛り上げたい」という気持ちを実現していったわけです。出演者の子どもたちの多くも地元の子ですし、まさに桑名市のリアルが詰まった作品になっています。さすが秦さんだけあって、地元の人たちだけが楽しんでしまうような内容ではなく、日本全国の人に響くストーリーに仕上がったと信じています。

映画の完成だけで終わらせまいと、地元の人たちで『映画「クハナ!」メモリアル~くわな子ども音楽祭 くわな えむ じゃんぶる』というイベントも開催することになったようです(10月30日開催)。こういった動きもただの地方映画ではないことを証明しているのではないでしょうか。私も三重県出身ということもあり、この作品に関わらせていただきましたが、地元の人たちみんなで映画を作っているというエネルギーをひしひしと感じ、本当に感動させられました。今後も“地方創生ムービー2.0”を掲げ、秦監督といろいろな地域の作品を作っていけたらと思っています。

映画「クハナ!」

東海地区先行公開中!イオンシネマ桑名、伏見ミリオン座ほかにて
10月8日(土)全国ロードショー
[2016/日本/スターキャット]
監督:秦建日子
出演:松本来夢/久志本眞子/加藤清史郎/磯山さやか/山村美智/宮本大誠/ウド鈴木/馬場ふみか/高垣彩陽/咲良菜緒/KUHANA! KIDS/大場美奈/平松賢人/秋本帆華/須藤理彩/多岐川裕美/風間トオル

[耳マン編集部]