【社長と音楽】歴代WALKMANの開発にも関わった“職人社長”は将来有望なフラメンコギタリストだった!?

特集・インタビュー

[2018/11/2 17:00]

あのWALKMANの発展に大きく貢献した社長

言わずと知れたソニーのポータブルオーディオプレーヤーWALKMANのメカ設計者として歴代のWALKMANの開発に従事、現在は株式会社カドーの社長としてECO/CLEAN/HALTHをコンセプトとした空気清浄機を開発している古賀宣行社長。今回は日本の音楽文化の発展に貢献してきたとも言える“職人社長”との音楽トークをお届けしよう。お話を聞いていくうちにかつては将来有望なフラメンコギタリストだったことも判明……。フラメンコからのWALKMANからの空気清浄機……異色の経歴を持つ社長に興味が尽きない!

株式会社カドー古賀宣行社長

——ソニーWALKMANの発展に大きく関わってきた古賀社長ですが、音楽との出会いを教えてください。

ふるさとが福岡県の大川市という田舎町なんですけど、作曲界の大御所、古賀政男さんの出身地でもあるんです。それもあって音楽をやる人が多く、わたしも子どもの頃にギターをやることになりまして。

——古賀一族なんですか!?

おそらく繋がっているとは思いますが、あの辺には古賀がいっぱいいますから(笑)。とにかくギターを親から買い与えられて、フラメンコギターをやり始めました。

——当時にフラメンコギターってかなり珍しいですね。

小学校6生のときだったので、1960年代の後半ですよね。やはり珍しかったです。それでも一生懸命練習して、中学校3年のときには福岡市にある明治生命ホールでソロのリサイタルも開催しました。

——中学生でソロリサイタルですか……!?

はい。それで高校3年のときには第2回のリサイタルもやったんです。1000人規模くらいのところで。やはり当時はフラメンコギターを演奏する人は少なかったので、それはそれで話題になりまして。新聞社がスポンサーとして入ってくれたりもしましたね。

当時のポスター

——プロの演奏家になろうとは?

そのときは考えていました。

——それでもソニーに入社した?

高校が佐賀県にある進学校だったのですが、2回目のリサイタルをやったのは3年生の夏だったので、当然勉強もできないわけですよね。それで成績もどん底になりまして(笑)。なのでこれは続けていけないと思い、家がそんなに裕福でもなかったので、東京の国立大学を目指して勉強を始めたんです。

——プロの道は諦めたということですね。

それで結局、千葉大学の工学部に入り、卒業後にずっと憧れていたソニーに入社することになりました。音楽関係の先輩がソニーの高級なデッキを使っていたりしていて、それがカッコよくてずっと憧れていたんです。

——演奏家としての将来に未練はなかったですか?

本当にプロになろうとしていたものですから、1日でも練習を休むと「ああ、今日は練習しなかった。ちょっと腕が落ちたな」と感じてしまっていたんです。そういう日々が続くなかで音楽が“音が苦”になっていた部分も大きかった。楽しむというよりも苦しくなっていたところもありましたので。

——一流を目指していただけに中途半端にはできなかったと。

はい、だから本当にスパーッとやめました。それで大学卒業後にソニーに入社して、WALKMANの開発に携わることになったわけです。

——本当にスパーッとなんですね。“音楽を外に持ち出す”というライフスタイルの発展に大きく貢献してきた古賀社長ですが、いまはどのように音楽を聴いているんでしょうか? やはり高性能なプレイヤーを使っていたり?

実はいまは音楽をほとんど聴かないんですよ。車に乗るときにカーステレオで聴いたり……それくらいの感じです。

——ソニーを退社されて、やっぱりそこもスパーッと切り替えたわけですか(笑)!

まぁ、音楽に使う時間よりもほかに使う時間が多いという感じです。

——趣味でもギターはまったく演奏しないですか?

フラメンコギターはいまでももちろん持ってますし、たまに弾きますよ。結婚式で頼まれたりとか、自分で会社を作る前までは、毎年『大人のコンサート』というライブイベントで演奏したり。最近はイベントには参加できていないですけどね。

——学生時代、ソニー時代と音に触れる日々を過ごしてきたことが、いまの仕事に繋がっているところはありますか?

私がこの会社で大切にしているのが「Small is Beautiful」というコンセプトです。WALKMANの開発をしていた当初は5、6人体制でひとつのモデルを作っていたんですね。どうやってもっと薄く軽く作るかなど、設計の隅々までを少人数でじっくりと検討しながらやっていたんです。ですが、デジタルの時代になると、ハードを作る部隊、アプリケーションを作る部隊、音楽コンテンツを展開する部隊というように会社規模でチームが別れるようになったわけです。

——どんどん消費者の顔がみえにくくなっていきそうですね。

良い悪いではなくて、そういう風に世の中が変わっていきましたからね。そうしたときに、自分自身はかつてWALKMANを作っていたときのような、少人数のものづくりスタイル「Small is Beautiful」の世界でやっていきたいなっていう思いに至ったんです。それでソニーを退社して、自分でものづくりをする会社を設立しました。

——空気清浄機を選んだ理由は?

一番の理由はアナログだからです。デジタルならチップを買っきて組み立てればどうにかなるといった感じもあるのですが、それではなかなか差別化が難しい。でもアナログにはそういう“標準品”がないので、全部自分で“こしらえる”わけです。だからそこに特徴が出る。僕は職人的なものづくりが好きなので、言ってみれば最先端とは反対側をいってるんですね(笑)。でもそこがものづくりの楽しさだと思っていますので。

カドー社内にディスプレイされているオシャレな製品たち

——WALKMANも日常のちょっとした時間を豊かにするものだと思いますが、そういう部分では空気清浄機も近いところがあるように思います。

そうですね。心をリッチにするような、そういう空間をデザインできればと思っています。

——社長なら音楽が再生できるステキな空気清浄機も生み出せそう……。

えーっと……どこまで話していいかわかりませんけど、音楽の要素を取り入れたアプローチも当然、検討はしています! 楽しみにしていてください(笑)!

(おわり)

スパーッとして情熱的な社長

自身の気持ちをスパーッと切り替えられる冷静さを持ちながら、ものづくりに対する情熱を燃やし続ける古賀社長。そんな社長のギタープレイは一体どんなスタイルだったのだろう。冷静さと情熱をあわせもったとてもハイクオリティな音色を響かせていたのではないかと想像が膨らむインタビューとなった。音楽経験者として「音楽が“音が苦”になっていた」という言葉はかなり胸に刺さったが、どんな選択をしたとしてもそこに情熱があれば人に感動を与える素敵なものを生み出せる、それを証明し続けている社長の姿にとても勇気をもらった。本当にお忙しく、取材中もひっきりなしに携帯電話が鳴っていた社長。そんななか今回はお時間をいただき本当にありがとうございました! 音楽ファンも喜ぶ画期的な清浄機、期待しています!

プロフィール

こがのりゆき●1957年生まれ。1980年大学卒業後ソニー株式会社に入社。メカ設計者として歴代WALKMANの開発に従事。2006年より中国シンセンに赴任しSONY ACBC(Audio China Business Center)を設立、プレジデント職につく。2010年3月末にソニーを退社後中国シンセンにCTK Technology (Shenzhen) Co.,LTDを設立。2012年6月に株式会社エクレア(現株式会社カドー)の代表取締役に就任。現在日本とシンセンを拠点としてECO/CLEAN/HEALTHをテーマとした独自製品の開発を行う。

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