「当たってない当たり屋と喋ってみよう」タケムラ アキラ(SNAIL RAMP)の『炎上くらいしてみたい』

連載・コラム

[2017/11/15 11:49]

1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマン・タケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載! この人……ホントにキックボクシングの元日本チャンピオン!?


前回のコラムでトラックに轢かれたことを報告したスッマホですが、同じ機種を中古で購入。しかし、データ移行のために壊れた機種も結局直さないといけなくなり、現在無意味にスマホ2台持ちの竹村です。

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さあ、今回からはまた「犯罪者と喋ってみようシリ-ズ」です。初回は「オレオレ詐欺とのタイマン」をお伝えしましたが、今回は数年前、下北沢にSCHOOL BUS RECORDSの事務所を構えていたときの話です。

あらかじめ断っておきますが、今回の話に笑う要素は特にありません。「こういうことがあったんだ」という思い出をそのままに書いたものです。

今はなきライブハウス下北沢屋根裏のあった道路、車がギリギリすれ違える程度の狭い道で車を運転していた俺。歩道もない小道のために車も歩行者も混然とした状況のなか、人が歩くスピードに合わせた超徐行。前後左右数10センチの距離に歩行者、自転車があり全方向に気を配りながらの徐行でした。

自車の左側に歩行者、左側リアタイヤの横辺りに並走する自転車、そのうしろに歩行者がいたのを覚えています。

リアタイヤ横の自転車と自車の距離がちょっと近く感じていたので、俺は自転車に乗った人に接触しないよう、終始左ドアミラーで確認しながら運転していました。そして、前を走る車が停車したために俺も停止。その間、そしてその前後も周囲、特に近い位置の自転車の挙動はミラーで視認しています。

前の車が進んだために俺も進もうかなと思ったそのとき、「ゴンゴン!」と怒気を込めたように車の窓を叩かれました。

おまけに何やらこちらに怒鳴っています。見ると、近い距離で並走していた自転車の人で、見た感じ50代の男性でした。窓を開けて「何ですか?」と聞くと、「人の足を車で轢いといて何だじゃねぇんだよ! てめえ降りてこい!」とそれなりの剣幕。

「え、マジかよ……」と降りていくと、「おい!どうすんだよ、人様の足を轢いといて!」と詰め寄ってきました。

「そうなんですか? 俺はあなたと接触しないようミラーで確認しながら走ってたんですが。足を轢いてしまうような状況はなかったと思いますよ」と返すと、「轢かれた俺がウソをついてるってーのか? こら、じゃあ警察行くか?」と言ってくる男性。

俺「警察に行ってもいいんだけど、轢いた轢いていないの水掛け論になるだけでしょ。そもそも轢いていないんだし。で、轢かれたと言うアナタ、怪我はしたんですか? したなら救急車でも呼びやぁいいでしょ」

50代男「てめぇ、穏便に済ませてやろうってのに誠意の見せ方も知らねぇのか!」

穏便ってもう街なかで騒いでんじゃねえかと心中でボヤきつつ、「誠意」という常套句が出たことで金銭目的な言いがかりというのも見えてきた、この件。

「もう面倒だな」と思った俺は、その50代男性のうしろを歩いていた若者に「巻き込んじゃって申し訳ないけど、この人のうしろをあなたは歩いていましたよね。俺、この人の足を轢いてないですよね?」と確認しました。

「いや……ちょっとよくわからないです」と逃げられちゃうかなぁという危惧もよそに、「轢いてないですね。全然轢いてないです」とハッキリ言ってくれる、とてもナイスな若者。

俺「ほら、彼もこう言ってるでしょ? 俺は轢いてないから。もうどっか行ってくれる?」

50代男性「あぁ? てめぇ○○組ナメてんのか?」

声のトーンを変えて凄みだす男性。○○組は子どもでも知っているような組織名でした。そして凄みながら、胸元の入れ墨をチラ見せしてきました。これが美しい女性の胸元か何かならまだしも、50代男性の入れ墨。

しかも筋彫り……さっさと色も入れなさいよ、その薄い胸板に。

もう何だか物悲しくなってきました。それが騙りなのか実際に組員なのかは知る由もないですが、盃を下ろされてたとしても、50代で当たり屋をやらねばならぬその落ちぶれ振り。

俺「あー、あなた看板持ちなんですね。しかも○○組なんて金看板じゃないですか」

50代男性「あたりめぇだろ。わかったらサッサと誠意を見せろ、お前」

俺「さっき警察行こうって言ってたよね。じゃあ行こうか、警察。そこで名刺ももらいますわ」

50代男性「あ?」

俺「そこの踏切のとこに交番あるからさ、そこでいいだろ。ほら、行こうぜ」

俺がそう言った途端その男性は乗っていた自転車に跨り、一目散に逃げ出しました。

追いかけるのもバカらしかったのでそのまま車に乗り込もうとしたとき、誰かの通報を受けた警官がやってきました。モメているうちらを見て、誰かが交番に知らせたようです。

逃げた男の特徴だけ伝えると警官はその男を追い始めたので、俺はそのまま現場を離れました。

それにしても脇の甘い当たり屋でした。まず「当たり屋なのに当たってこない」、そして嘘だったとしても「組織名を名乗ってしまう」。

すっげえザックリ言うと暴対法では「組の名前を出して示威行動すること」を禁じており、あの50代男性は自らその罠に落ちていったのでした。

あれじゃあ当たり屋としても大成しないだろうな……。そう思いながら車を走らせる俺でした。

【著者紹介】

タケムラアキラ(竹村哲)●1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中。

[タケムラ アキラ]