「安室奈美恵と俺・前編」タケムラ アキラ(SNAIL RAMP)の『炎上くらいしてみたい』

連載・コラム

[2017/9/29 11:30]

1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマン・タケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載! この人……ホントにキックボクシングの元日本チャンピオン!?


このコラム『炎上くらいしてみたい』では「オレオレ詐欺と喋ってみよう」に引き続き、そういった犯罪の類をする人たちとのコミュニケーション歴を数回書いていくつもりだったが、先日ビックリするニュースが報じられた。

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「安室奈美恵、2018年9月で引退」だ。あの安室ちゃんがついに引退。スーパーモンキーズ時代、TKファミリー時代を経て、現代的なR&Bをも歌いこなす文字どおりのビッグアーティストへと変貌。彼女を知らない日本人ってホントにいないんじゃないかなっていうほどのド級の有名人だし、俺みたいな一介のバンドマン風情が安室ちゃんと関わることはまずない。

ところがですね、俺あんのよ。あの安室奈美恵と関わったことが。

「関わったことがある」とかのたまいながら、「安室奈美恵」とか「安室ちゃん」という「完全に傍観者目線」な呼び方をしている時点で
やはり彼女は俺から見て遠い遠い存在ということがおわりいただけるだろう。

しかし過去1回だけあった接点、そのたった1回の経験はいまだに俺のなかでとてつもない大きな経験として残っているのだ。今回はそんな「安室奈美恵と俺」のお話し。

当時の俺はSNAIL RAMPというバンドで精力的に活動、ニッポン放送で『オールナイトニッポン.com』をやらせてもらってもいた。この番組には時々ゲストが来てくれて、それは有名な人もいれば「この方たちは誰なんだろう……」的な人たちまでそのバリエーションは豊かだった。そんなある日、番組スタッフから言われた「えー、今度のゲストは安室奈美恵さんです」の言葉。

「へ? 安室ちゃん?」

俺はポカーンとした。みなさまから怒られるのを承知で言おう。まず俺は安室ちゃんに興味がなかった。いや「安室ちゃんに興味がない」というのは語弊がある。当時、俺はテレビをほとんど見ない生活だったので、いわゆる芸能人やテレビに出るような歌手の人たちのことはボンヤリとしか知らなかったし、知らないゆえに「その世界」全体にあまり興味がなかったのだ。

しかし安室ちゃんが大スターという認識はある。そんなすごい人を番組に迎えて、俺は一体どんな話しをすればいいのか。第一、『オールナイトニッポン』に来るのに何で俺の番組なんだ。ほかの曜日にはナインティナインさんやaikoさんだっている。そっちに行ったほうが魅力的な組み合わせだし、まず聴いている人たちだって多いであろう。

正直、俺には荷が重い。「困ったなー」、それが安室奈美恵をゲストに迎える俺の率直な感想だった。

番組は深夜1時から3時という時間で生放送のため、安室ちゃんのゲストパートは事前に録音となった。スタジオもニッポン放送のいつものところではなく、全然別のところで録った気がする。年月が経ったうえ、「ちょっと狭いな」と思ってしまうスタジオ。「ここにあの安室ちゃんが?」というスタジオだった。

収録当日、現場には開始予定時間よりも早めに入り、スタッフの人たちと打ち合わせがてら雑談をしていたら「安室さんが入られまーす」の声がかかった。

そちらを見やると、入ってきましたよ安室奈美恵が。

「安室ちゃんだ……」

そう思いながら自己紹介をする。

「SNAIL RAMPというバンドをやっています、竹村です。今日はよろしくお願いします」

「よろしくお願いします。安室奈美恵です」

そう言って丁寧に頭を下げる彼女、そのとき俺は心の中で絶叫していた。

「知ってるから! あなたが安室奈美恵なの、すっげえ知ってるから!」

自己紹介後、安室奈美恵と向かい合うには小さすぎる机を挟み、お互いに座った。そこで番組スタッフから流れの説明を、簡単な原稿に目を落としながら聞く彼女。

目が合わないのをいいコトに安室ちゃんを凝視する俺。

「髪が……キレイ……」

それがそのときの感想。スタッフの説明に頷くたび、わずかに揺れる髪。それがとてもサラッサラで綺麗だった。まだ続く説明に便乗し、安室ちゃんを凝視し続ける俺。彼女は原稿に目を落とすために少しだけうつむいている。

「安室ちゃんの頭頂部……。これが大スターの頭頂部なのか。ハゲてない(←あたりまえ)」

俺が安室ちゃんの頭頂部を凝視している間に、スタッフからの説明は終わった。

「では準備が整い次第で収録開始しますので、もう少々だけお待ちください」

そう言ってスタッフはブースを出て行った。うすら狭いブースという密室に、小さなデスクを挟んで相対する俺と安室ちゃんだけが残された。

「おいおいおい! ウソだろ! あ、あ、安室ちゃんと2人きりとか、俺どうしたらいいんだよぉっ!」

何か喋らなければならない。でも・……これを読んでくれている男性諸君はわかってくれるよな? 女性を前にして話題が出てこないとき、そんなときは考えれば考えるほど「話題」は思いつかない。俺が安室ちゃんについて知っている情報、それは「沖縄出身」というコスりにコスられすぎた、「情報」とはまったく言えない情報しかなかった。

でも今はそこに頼るしか……! 俺は覚悟を決めた。

(後編も近日公開!)

【著者紹介】

タケムラアキラ(竹村哲)●1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中。

タケムラアキラ

竹村哲●1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中。