「オレオレ詐欺と喋ってみよう!(前編)」タケムラ アキラ(SNAIL RAMP)の『炎上くらいしてみたい』
1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマン・タケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載! この人……ホントにキックボクシングの元日本チャンピオン!?
好む、好まざるに関わらず、生活のなかで犯罪に遭遇してしまうのは今も昔も変わらずでしょう。それは凶悪な犯罪からイタズラに近いものまで形も被害もさまざまで、俺もそうした犯罪に遭ったり、たまたま現場に居合わせたりといった経験がいくつかあります。
そうしたとき、皆さんならどうするのでしょうか。
「逃げる」「すぐ通報する」
それは非常に賢明な判断ですし、俺もそれをオススメします。ただ俺自身は捻くれているからか、それがなかなかできないんですね。
俺の場合は
「仕掛けてきた相手とコミュニケーションを取る」
です。
「コミュニケーション」という表現が的確とは言い難いのですが、相手とやり取りをするという点ではコミュニケーションです。自分が被害に遭わないよう相手とやり合う場合もあるし、無言電話をしてくる相手と無理やりにコミュニケーションを取ったこともあります。
いくつかあるなか、まず今日ご紹介する「非日常コミュニケーション」は、「オレオレ詐欺君とコミュニケーション」です。
数年前のある日、東京から地方都市に引っ越した友人女子から非常に慌てた電話が。聞くと東京に住んでいるお兄さんが借りていた車で事故を起こし、至急弁償しなければならないという。
友人曰く「お兄さん本人から電話があり、泣きじゃくっていた。駆けつけたという保険会社の人が兄と電話を代わり、”弁償してくれないとお兄さんは逮捕されてしまう。警察官もここにいるので代わります”と。電話を代わった警察官も”弁償できなければ逮捕するしかない”と言っている。どうしたらいい?」と。
このときは率直に呆れましたよね。もうコテッコテのオレオレ詐欺じゃないですか。この頃にはすでにニュースで頻繁にオレオレ詐欺の手口を取り上げていたのに、ここまでコロッと引っ掛かるとは。
一応「話した相手は本当にお兄さんだったの?99%オレオレ詐欺だと思うんだけど」と言いましたが、「違う! あれはお兄ちゃんだった。早くしないとお兄ちゃんが逮捕されちゃう! ねえ、どうしたらいい⁉︎」と焦りまくる友人。
聞くとお兄ちゃんの携帯は充電切れで使えないそうなので、保険会社の人の携帯に掛け直すことになっているとのこと。これもオレオレ詐欺の常套手段です。「じゃあ俺がその保険屋さんに掛けて、事情を再度聞こうか?」と提案すると「いいの? そうしてくれると助かる! ありがとう!」と即答。
「ぜってぇオレオレ詐欺なんだけど……」と思いながらも、万が一ということもある。まずは丁寧に話すこととして、教えられた携帯番号に電話を掛けました。当然こちらは番号非通知で掛けた気がしますが、そこの記憶は曖昧。
プルルルル、プルルルルと呼び出し音がしたあと、先方が電話を取ります。「えー、先ほどお電話頂いた◯◯さんの事故の件で掛け直しました」と言うと、「◯◯さんね、事故はお気の毒ですが修理代を払えないと逮捕になります。どうしますか?」と単刀直入に「お金ちょーだい!」モードに。
「自分は代理の者ですがね、お兄さんに瑕疵(かし)があるのであれば弁済することになるでしょうが、状況がわからない。もう一度説明してもらえますか?」と促し、オレオレ詐欺君の説明をひとしきり聞く。それによれば、お兄さんは会社から借りていた車で単独の自損事故を起こし、車両は廃車状態に。その車両ぶんの弁済を会社にすぐしなければ逮捕される、ということでした。
俺は「詐欺師ともあろう者がこんな陳腐なストーリーしか作れないのか」と愕然としました。そして、こんな話しを信じて、言われるがままにお金を振り込んでしまう人たちが本当に存在するという事実。しかも高齢の方々だけでなく、友人のような20代までが騙されてしまうんですね。
今回の件が「オレオレ詐欺」だという自分的な認識は得たものの、このまま電話をガチャ切りして「実際は本当のことで、お兄さんが逮捕されちゃった」となっては友人に申し訳ない(本当のことだったとしても、その場で逮捕されるような案件ではないが)。話しをするなかでジワリジワリとオレオレ詐欺君を追い込んでいき、その詐欺を破綻させたい。そして、知能犯と言われる詐欺師の知恵がどこまで回るものなのか、体感してみたい。
俺はオレオレ詐欺君の話しを聞きながら、自分のターンを待ちました。
(次回へ続く)
【著者紹介】
タケムラアキラ(竹村哲)●1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中。