「クワマンと店員とカニカマと俺」タケムラ アキラ(SNAIL RAMP)の『炎上くらいしてみたい』

連載・コラム

[2017/6/15 11:30]

1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマン・タケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載! この人……ホントにキックボクシングの元日本チャンピオン!?


俺とクワマンさんの思い出

先日、ラッツ&スターのメンバーでもある“クワマン”こと桑野信義さんが、カレー屋『くわまんカレーBLACKY』を台東区千束にオープンしたという話題があった。もともと料理をするタイプの人だったようで、おそらくカレーにも一家言あるのだろう。飲食店が生き残っていくのもなかなか難しい時代なので苦戦も予想されるが、どうだろうか。

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クワマンさんはラッツの前身・シャネルズ時代から数々のヒットを飛ばしていた人だし、バラエティにもよく出ていたのである年齢以上であれば知っている人がほとんどであろう。そして俺にはクワマンさんの思い出がある。

あれはもう15年ほど前であろうか、遊んだ深夜の帰り道、俺は大田区のとあるコンビニで買い物をしていた。当時はまだキックボクシングの現役選手、おまけに試合前での減量中。しかしどうしても小腹が減ってしまい誘惑に負け、何か買おうとしたのだ。

惣菜コーナーあたりで「どれにするかなー。炭水化物はやめといてカニカマで乗り切るかな……」と真剣に選んでいると、誰かが入店してきたようだった。しかし、ここはコンビニ。誰かが入店してくるのは当たり前なので気にも止めていなかったが、そのお客は何やらブツブツ独り言を発している。どうやら酒に酔っているらしかった。彼も何やら物色していたが、やがてコンビニの店員に「おい!」と少々荒々しく声を掛けた。

「全然、品物がねーじゃねーか! どうなってんだ、ちゃんと出しとけよ!」

彼が何を探していたのかはわからなかったが、お目当ての品がなかったらしく憤りながらレジ前ににじり寄って行った。俺は「うわー、面倒くせぇオッサンだ」と思うと同時に「店員のにいちゃん、華奢な感じだったよなぁ。何かあったら助けるか」と腹を決めつつ、「でもカニカマ食べても、結局足りなくてまた何か食べちゃうんだよ。だったらもうおにぎりでもいくかな……」とさらに葛藤しつつ食べ物を物色していた。

その間もオッサンは店員さんに文句を言っていたが、途中で「あのお兄ちゃんを見てみろ!」と言いだした。

「ん……?」

俺は手にしたおにぎりのラベルに表示された成分表を見つめつつ、「え?俺?」とキョトンとした。

店内にはオッサン、店員さん、俺の3人しかいなかった。「あのお兄ちゃん」は俺のことらしい。荒ぶり続けるオッサン。

「あのお兄ちゃんを見てみろ! おにぎりひとつをあんなに真剣に選んでる人を見たことあるか!? ああいう人だっているんだぞ!!」

「えぇ!?」と思って声のするほうを振り向くと、そこには明らかに酔ったクワマンさんがいた。

そしてまた繰り返す。

「いいか、おにぎりひとつをあんなに一生懸命選ぶ客だっているんだからな! 忘れんなよ!」

やーめーてー。恥ーずーかーしーいー。

俺は試合前のシビアな減量中ということもあり「カロリー、タンパク質、脂質」などの各成分を鑑み、少しでも優れたバランスの食品を摂りたかったのだ。たかがおにぎり1個なのだが、こちらとしては競技に真剣に向き合っている分、視野を緩やかに広く持つこともできていなかった。

ゆえに些細な違いさえも見落とさぬよう、その成分表を凝視していた。クワマンさんは酔いながらもそんな俺のことが目に付いたらしい。

結局、何がしかの物を買って意気揚々と出て行くクワマンさん。そして「あんなこと言われたら、恥ずかしくて買えねえじゃねえか! 何これ、クワマンダイエットか!」と恥ずかしさと恨めしさを持ちつつ、その姿を横目で見送った俺。

そのとき、彼の持つ携帯電話が目に付いた。それは今のようなスマホではなく昔の携帯電話であり、何やらキャラクターが付属したストラップも付いていた。

それは「クワマン」。

そう、クワマンはクワマン人形が付いたストラップをしていた。

大きいクワマンのうしろ姿越しに見える小さなクワマン。これが俺のクワマンに対する思い出のすべてです。

しかもこのコラム、最初は「クワマンさん」と呼んでいた俺も、最後の方には「クワマン」「クワマン」と呼び捨てになっていますが、気にしないでください。僕も気にしていないので大丈夫です。

【著者紹介】

タケムラアキラ(竹村哲)●1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中。

タケムラアキラ

竹村哲●1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中。