「#ちょっとでもいいなと思ったらRT」タケムラ アキラ(SNAIL RAMP)
1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマン・タケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載! この人……ホントにキックボクシングの元日本チャンピオン!?
ここ数年でかなりの使用者を獲得したSNS。昔はmixiだったのが、Facebook、Twitter、Instagramと様変わりし、LINEに至ってはなくてはならない通信手段と化している。俺もそんなSNSユーザーの1人なのだが(Twitterアカウント @TAKEMURAAKIRA)、時々ある現象が目につくことがある。
少し前はInstagramを主戦場として行なわれている「間接自慢」が話題になったことがあった。これは一見何の変哲もない画像(例えばテーブル上のスタバのコーヒー)をアップしているのだが、所有しているブランド物のアイテムをさりげなくそこに写り込ませて、「私のバッグ、バーキンだから」とやったり、車のキーをそばに置いて「僕ちん、メルセデス乗ってるんでしゅ」とやったりする。
これもバッグがCOACHだったり、車がマークXだったりすると「いなたい」感じがして好感を持たれたかもしれないし、「俺の肩関節、どうっすか?」みたいな、むしろ関節自慢だったら見ている方も混乱して嫌味も何もないであろう。
もっとも俺がフォローしている人にはこのような「間接自慢」をするような人がいないので、実感としてそのイラつきを覚えたことはない。
ただ……ハッシュタグ……。そう、ハッシュタグなのだ。
本来「#ラーメン」のように伝えたい内容の共通項としてこのハッシュタグを書き込んでおけば、それを頼りに検索し、その書き込みを目にできるという言わば目印なのだが、昨今は目印としてのハッシュタグではなく、文の一部としても使われている。
10代の子たちの間で数年前に流行ったのは、自撮りをあげて「#ちょっとでもいいなと思ったらRT」とのハッシュタグを付けツイート。RTされた数で自分のルックスがどの程度のレベルなのか量る、いや、むしろ「ね、私カワイイよね?」「俺、かっけーだろ?」と他者に認めてもらいたいが為に発信する流れ。
実際ルックスのいい子は数百、数千というかなりのRT数を稼いだのであろうし、微妙な子でもその友達がお付き合いで援助したろうから、10~20程度のRTはあったのではないか。ただ「自分」をまだよくわかっていない10代であるから許容されたことだろうし、むしろそういう過程を経て「自分」と「世の中」の距離感、主観と客観の違いを知っていくのだと思う。
しかし、それが30代半ばになろうという大人の女性、しかもリアル友人がそれをやってしまったとき……。
いや確かに彼女は歳の割には幼くもみえ、その自撮りも悪くはない仕上がりだった。もちろん、その1枚をアップするまでにどれほどのシャッターを押したか俺は知らない。光も強めに当てただろう。もしかしたらそれ用のライトをAmazonで購入していたかもしれない。そして例のハッシュタグも付いていた。
「#ちょっとでもいいなと思ったらRT」
「お、おう……」俺は何とも言えない気持ちで彼女のツイートを眺め、そのRT数を見た。
RT数→「2」
「助けて!」——俺は正直そう思った。「ツイートしてからまだ間もないのかも。絶対そう!そうに違いない!」。俺は半狂乱になったフリをしながら思ったが、すでに半日は経っているツイートだった。
せめて俺がRTしようか、一瞬そうも思ったが「2」が「3」になるだけ。焼け石に水だ。「しかし2が3になるのは、1.5倍増。企業の業績で言ったら前年比150%増し、これってすごいぞ」。俺はなぜか彼女を大企業に当てはめ始めたが、実際はただの元キャバ嬢だ。「RTが2ってことは、お店時代の指名もあんまり取れてなかったのかな……」と彼女の現役時代に思いを馳せながらTwitterをそっと閉じた。
あれから時も経った。RTは伸びてくれたであろうか。
【著者紹介】
タケムラアキラ(竹村哲)●1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中。