真似したくてもできない! レゲエのベースが図太くてクールな理由【ロックのウラ教科書 Part.7】

連載・コラム

[2018/6/29 11:30]

プレスリー、ビートルズ、ストーンズ、ジミヘン、デヴィッド・ボウイ……歴史に刻まれた名盤の数々をレコーディングという側面で切り、そのウラに隠された噂の真相を探る新連載。

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ベースの低音がスコーンと抜けている理由

ベースと言うとボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの『キャッチ・ア・ファイア』あたりで聴けるような図太いサウンドは、どうやったら作れるのかという質問が多く寄せられるんですが、実はあれは普通にやっていたら絶対無理なやり方で作られています。

ロック全盛のイギリスでヒットさせようとしたときにレゲエのようなテンポが遅い音楽は絶対売れないと踏んで、ロックと同じようなテンポになるようにオケのテープの回転数を上げてミックスしてしまったんですね。物理的に回転数を上げると、録音されていた楽器のピッチも上がるので、ドラムも全体のチューニングが上に上がったような音になります。普通はバスドラムの帯域とベースの帯域はかぶるので、ベースの低音を上げてもバスドラムに打ち消されて、そこまで大きな音で聴こえませんが、バスドラムの位置が上昇してぽっかりスペースが空いているので、ベースの低音をイコライザーでグッと持ち上げてあげれば、戦う相手がいないので抜けるような低音がスコーンと聴こえます。

ベースの低音を出す=ベース以外の低音を削る

実はこれは1990年代に流行したドラムンベースと同じ仕組みですね。ドラムをサンプラーで録音し、千切ってからピッチを上げて再生、がら空きになった重低音のスペースに、ベースを唸るような低さで入れるというのがドラムンベースのシステムです。ロニ・サイズの『ニュー・フォームズ』をレゲエと聴き比べてみると、面白いかもしれないですね。彼はジャマイカからの移民でレゲエの影響も受けているので、共通項と違いがわかりやすいと思います。

ベースの低音を出す=ベース以外の低音を削る、という考え方は音楽をかなり深く知っていないとなかなかわからないもの。ミックスではこのように、この楽曲の中で優先度を高めて聴かせる素材はどれかを選んで、強調して印象を増すような音の組み立て方をしていきます。これがわかると、ヒップホップのような重心の低いバスドラムと、レゲエのような低い低音と、ヘヴィメタルのような重低音のギターが入った曲みたいなのが、そもそも成立しないのに気づきますよね。エンジニアの側でバランスをとって良さをブーストするのはもちろんなんですが、本当に音がよく聴こえる曲は、最初から周波数帯の住み分けができるようにアレンジが練りに練られているのです。

イラスト:福島モンタ

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著・中村公輔

レコーディングがわかると、ロックがもっと見えてくる! バスドラムに穴を開けるようになったのはビートルズの無茶振りのせい!? スティーリー・ダンのドラムは生演奏ではなく本当は打ち込みだった!? 歪んだギターが誕生したのは壊れたアンプを新聞紙で応急処置したから!? 録音機材の進化と、破天荒なエンジニアが生み出したブレイクスルーを詳細に解説。『ザ・ビートルズ』ザ・ビートルズ、『ベガーズ・バンケット』ローリング・ストーンズ、『ペット・サウンズ』ビーチ・ボーイズ、『メタル・ジャスティス』メタリカ、『エイジャ』スティーリー・ダン、『ナイト・フライ』ドラルド・フェイゲン、『パレード』プリンス、『L.A.ウーマン』ドアーズ、『ラヴレス』マイ・ブラッディ・バレンタインなどなど、絶対の名盤が多数登場! ロックをより深く聴くための、リスナー向け録音マニュアル。5月25日に発売。全288ページ、1600円+税。ロックのウラを知りたいあたなのための1冊です!

◎なかむらこうすけ
1974年生まれ。1999年にNeinaのメンバーとしてドイツMile Plateauxよりデビュー。その後、自身のソロプロジェクトKangarooPaw のアルバム制作途中にずぶずぶと宅録にハマリ、気づいたらエンジニアに。近年に手がけたアーティストは、入江陽、宇宙ネコ子、Taiko Super Kicks、TAMTAM、ツチヤニボンド、ルルルルズなど。プロデューサー、作曲家、音楽ライターとしても活躍中。

耳マン編集部