【コラム】芸人にとっての激動の2020年~平井“ファラオ”光~
芸人たちもさまざまな選択を迫られた2020年
平井“ファラオ”光です。『耳マン』ではもうおなじみと思わせていただいているコラム『音楽“ジャケット”美術館』の館長のあのヒゲです。
さて今回僕が参上したのは、激動の2020年も終わろうとしている今、僕なりの目線で今年を振り返り、お笑いの世界、エンタメの世界の現在と今後についての思いを書かせていただこうと思ったからだ。何だか重々しいテーマのようだが、別に真剣に読む必要はまったくない。SUBWAYでホットドッグでもかましながらマスタードソースついでに読んでいただければ幸いである。
世間的にこの2020年という年がどんな年だったかと言えば、おそらく満場一致で「冗談じゃねえ」年だったということになると思う。東京オリンピックをはじめ多くのイベントが中止となり、なかでも3月14日開催予定だった僕率いる芸能サンリオ部のピューロランドイベントが中止になったことは、日本中の人に大きなショックを与えた出来事であった。
そんななかで春先の自粛期間。まるで世界の時間が止まったかのようでもあったあの時期を通して世の中がどう変わっていったのか。
我々芸人で言うと劇場でのライブができなくなり、その間にネタ合わせに専念する者、バイトに専念する者、ZOOMを使ったオンラインイベントに力を入れ始める者、YouTubeに力を入れ始める者、何か新しいことに手を出す者、太ったやつ、そしてやめる者など過ごし方はそれぞれであった。
ちなみに僕はこの期間にYouTubeに力を入れ始め、新しいことに手を出し始めた者でもある。新しいこととはまず古代エジプトタロットカード。もともと占いなどとはまったく無縁の人生を送ってきた僕だが、自粛期間に何か特技を増やしておこうと考え、あるときふと友達の橋山メイデンのことを思い出した。橋山メイデンとは芸人一のヘヴィメタル通で、過去に『耳マン』のサマソニレポートで撮影役として僕が同行させてやったにも関わらず勝手に麻雀ブースで遊び散らかし、オノレの役目を1ミリも果たさなかったスカポンタン野郎である。実は彼は特技のひとつにタロットカードがあり、「ヘヴィメタルタロット占い」なる独自の占いスタイルで吉本の劇場などでブースを設けたりしているのだ。
そこから僕は考えた。「あいつにできて俺にできないはずはない」。早速ネットでタロットカードを探してみたところ、「ネフェリタリタロット」なる金色で装飾された美しいタロットカードがあったのでそれを購入。ちなみにネフェルタリとは古代エジプト第19王朝のファラオ、ラムセス2世の嫁で古代エジプト3大美女に数えられる人である。そこからまったくの独学でタロットカードのルールを学び、家で勝手に対象となる人や物を想定しながら占ったり、YouTubeなどで実践を交えながら勉強していった。最近では渋谷の古代エジプト美術館でブースを設けさせていただいたりと、始めたての割にはそれなりに展開できているので、タロットカードを選んで正解だったかなとは思っている。ありがとう橋山メイデン。でもお前『耳マン』には謝れ。
そして新しく始めたこと、もうひとつはエレキギターである。こちらは友達の橋山メイデンとメタルバンド結成を目標に始めたことだ。橋山メイデンとは芸人一のヘヴィメタル通で、過去に『耳マン』のサマソニレポートで撮影役として僕が同行させてやったにも関わらず勝手に麻雀ブースで遊び散らかし、オノレの役目を1ミリも果たさなかったスカポンタン野郎である。そんな彼と今現在も知り合いのギタリストの人に教えてもらいながらメタルの楽曲を一生懸命練習中なのだが、おそらく僕らは世界一才能がなく、始めて半年ほど経ちながらちょっとまだ人前で披露できるようなレベルには達していない。僕なんてもともとアコギは経験者なのにである。こんなんじゃ連載で音楽のことを偉そうに語れなくなってしまうので、連載で偉そうに語るために今後もがんばって練習を重ねていこうと思う。いずれ披露できるときをお楽しみに。
そのほか別の芸人が主催するZOOMのオンラインイベントなどにちょくちょく参加もさせていただいたが、エンタメを提供する側の緊急時の手段のひとつとしてZOOMには助けられている反面、オンライン特有の微妙なラグなどにトークのリズムが崩されたりするのがストレスではあった。
苦しい状況のほうが笑いは生まれやすい。しかし、苦しみの声を上げづらいのも芸人
人々の緊張感もどこか薄れてきたような雰囲気も感じるなかで、エンタメ業界も何とか元の活気を取り戻そうとある程度は生のイベントなども復活させるようにはなってきた。とはいえ人々の生活習慣が大きく変化せざるをえなくなったこの2020年を通し、今後のエンタメ界の在り方が問われる今、表現者たちは、我ら芸人という人種はこれからどう変化していくのか?
正直他のジャンルの人たちに関してはわからない部分が多いが、少なくとも芸人でいうならまだそれほど自粛前と比べても各々の根本的なスタンスは変わっていない人が多いように思う(というか時代の変化に対応できる器用さを持っていないだけかも)。賞レースが中止になっていない以上、賞レースでの成功を目指す者(これがほとんど)、あるいはオノレ独自の笑いのスタイルを目指す者。
どちらにせよ芸人は割と大丈夫である。生命力はゴキブリ並、いやむしろスリッパで叩かれるのを気持ちいいと思うぶんゴキブリ以上だ。そもそも苦しい状況に身を置くことには慣れているし、むしろそんな状況のほうが笑いは生まれやすいので、ある程度は大丈夫。もし大丈夫じゃなくなるとしたらそれは守るべき人、苦しませたくない人が近くにいる場合など。自分ひとりが苦しいだけでないとなるとさすがにそれはきつくなる。しかしそんなとき、芸人は職業柄苦しみの声を大々的に上げづらいので、もし何となく気づいたらそっと助けてあげてね。
果たして来年がどのような状況になっているか、それはわからないが、とりあえず僕は自分のやりたいこと、表現したいことにできる限り正直になっていきたいという思いがある。音楽や日本画、サンリオなどの好きなことをもっと広めたいというのもあるが、そもそも芸人としてのプライドは1ミリたりとも捨てちゃいない。むしろ年々強くなっていっているので、自分のなかにある表現したいさまざまなこと、自分にしかできないことをより理想に近い形で実現させるためにいろいろと下準備中である。金とか必要なものが揃ったらいずれ披露したいと思う(ひとつの形としてYouTubeでは出しているが)。ちなみにこの文章はすべて鼻で打っている。
ただでさえ機械的な表現が増えてきた時代に、今年は人と人とのつながりを断絶しようとする悪魔の仕業によりさらに拍車をかける年になってしまった。しかしお笑いがそうであるように、音楽も、美術も、芝居も、漫画も、アニメも、詩も、本も、ファッションも、踊りも、なか卯も、それらの融合もすべて“プライド”という人間の心の臓にのみ生まれる炎がある限り途絶えることはない。
来年もし新宿の街をターミネーターが普通に闊歩していたら、それは完全にコロナに対する人類の敗北である。