ジャケットではシリアスな内容を想像させるが音楽は意外とお茶目~ガーゴイル『天論』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第128回:ジャケットではシリアスな内容を想像させるが音楽は意外とお茶目
今回ご紹介するのはこちら。
ガーゴイル『天論』(1993年)
1970年2月13日の金曜日、闇の帝王オジー・オズボーン率いるブラックサバスが世に降臨し、ヘヴィメタルと呼ばれる音楽の歴史が始まった。それから50年。ヘヴィメタルはロックの枠組みを超えたひとつの巨大な文化を築き上げ、またその中でさらに時代に合わせたさまざまな形での進化を遂げてきた。そして今や無数に存在しすぎるヘヴィメタルのサブジャンルにおいて、その境界線を正確に見極めることは誰にも不可能なのである。
というわけでBSのドキュメンタリー番組みてえな仰々しい解説から始まった今週は、2020年の100回記念セコセコショッピング企画(https://33man.jp/article/column38/009021.html)にて購入した中から日本のヘヴィメタルバンド、ガーゴイルを。キャリア的には1987年から活動を開始しているベテランバンドで、メジャーデビュー自体は1993年。派手なメイクと衣装を纏い、ビジュアル系の先駆者的存在と言われているらしい。ただそう言われているバンド、なんか多くないかい?
ヘヴィメタルの中でもジャンルはスラッシュメタルに当たるようだが、同作『天論』を聴いている最中は正直まったくスラッシュメタルを聴いているという感覚はなかった。スラッシュメタルとはいわゆるメタリカなどに代表されるようなスピード感やヘヴィさを重視したタイプのヘヴィメタルで、ジューダス・プリーストをより攻撃的に進化させたような音楽である(そもそもジューダス・プリーストを知ってりゃスラッシュメタルも知ってるだろうが)。まあそう言われれば確かにスラッシュ的要素もあるかなという程度の印象で、普段メタル系を主食のひとつにしている僕でもそんな印象を抱くのだから、いかにヘヴィメタルのサブジャンルが曖昧なものかなんとなくわかっていただけるだろう。
だからなのかわからないが、スラッシュ系は実はあまり肌に合わないものが多かった僕でも『天論』は楽しめた。メロディがつかみづらいドスの効いたボーカルと、対照的にメロディアスで洗練された印象のギターが良いバランスを生み出しており、何より全体的なアレンジが非常におもしろい。カントリーからクラシックまでさまざまなジャンルの音楽要素を(良い意味で唐突に)取り入れたりと細かい部分に至るまで遊び心が感じられ、意外なほどポップな作品のように思えた。
ジャケットは天論(仏教言葉らしい)というタイトルどおり、東洋哲学の教典のような物々しい雰囲気を漂わせている。中のデザインや絵の画力も非常に高く、何かの引用なのかこのアルバムのために描いたのかはわからないが、わかりやすく世界観が統一されていていい。この重厚感のあるジャケットだけを見ればかなりシリアスな内容を想像させるだろうが、音楽を聴けば意外とお茶目なバンドなのかなという印象を与えると思う。何にせよメタル好きでまだ聴いたことがない人がいれば迷わずお勧めできるアルバムである。
2021年1月20日の水曜日、オジーさん、あなたの生み出したヘヴィメタルは水のように柔軟に変化しながら日々進化を遂げていっています。
ところでこのときのギタリストである屍忌蛇氏は地獄のように酒癖が悪いらしい。ある筋の噂。