内容は深いのにジャケットがペラいぞ~ローリング・ストーンズ『ブルー&ロンサム』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
番外編~残念なジャケット~(第125回):内容は深いのにジャケットがペラいぞ
とうとう本連載も2020年最後の更新を迎えてしまった。今年は皆いろいろと大変だったと思うが、僕も正直かなり大変だった。デケー仕事がいくつもなくなり金銭的にもかなり追いつめられた状況でありながら、職業上プラス性格上オノレのピンチを声を上げて言うこともできずなかなかヤッテランネー年であった(まあ今でも状況はあまり変わってないが)。そんな中でリットーミュージックさんも大変な状況ではあるだろうに、この連載を変わらず続けさせてくれてくれたことには本当に感謝したい。そしてもちろんこの連載を読んでくださっているみなさまにも改めて感謝感謝である。今年は記念すべき100回を迎えることもできたし、担当者さまからは200回目指してがんばりましょうとのありがたいお言葉もいただいたので、今後も引き続きこの連載は大事にしていきたいと思う。
というわけで2020年最後の『音楽“ジャケット”美術館』、最後は悪口を書きますね。
この連載でももはや常連組のひとりであるローリング・ストーンズ。今年最後は彼らの残念なジャケットをご紹介。
ローリング・ストーンズ『ブルー&ロンサム』(2016年)
『ブルー&ロンサム』はもはや50年を超えるキャリアを誇る彼らにとっては11年ぶりとなるスタジオアルバムである。それもただのアルバムではない。ストーンズ初となるブルースのカバーアルバムだ。オリジナルアルバムを制作中に何となく息抜きでブルースのカバーをやったら、思いのほかメンバー全員が乗ってしまい、そのままカバーアルバムにしてしまおうという流れになった、ということらしい。しかもそうして完成までにかけた日数はわずか3日間。つまり現代の音楽業界では珍しくオーバーダビングをほとんどしていないアルバムということである。
しかしこれが見事なまでに功を奏しており、どこを取ってもストーンズ印の荒々しくも生々しいサウンドははっきり言って彼らの全盛期とされる1970年代をも超える心地良いグルーヴ感がある。正直『ブルー&ロンサム』こそが彼らの最高傑作と言ってしまいたくなるほどの圧倒的な完成度を誇るアルバムである。
そしてそれはブルースというすべてのポピュラーミュージックの父である偉大なる音楽に対するストーンズの理解の深さがあってこそだと思う。なぜなら彼らが音楽をやっている最大の理由は、自分たちが聴いて育ってきたブルースという素晴らしい音楽を後世に伝えるためなのだから。だからこそ彼らはブルースの深みを理解し、白人でありながら最高のブルースを聴かせることができるのだ。リトル・ウォルターやハウリン・ウルフへのリスペクトも持ちながら、自分たちならではの音で最高のブルースを奏でる。純粋な形のブルースなどもはやメインストリームには残っていない現代に、ロック界最強のレジェンドバンドであるストーンズがそれをやるということに大きな意義があるのだ。『ブルー&ロンサム』はそんなストーンズから若い世代に向けての「偉大なる父を忘れるなかれ」というメッセージのようにも思える。
そんな21世紀の大名盤である『ブルー&ロンサム』のジャケット、これがダッセエ。ブルーだから青を基調とし、もはやストーンズを知らずにそのTシャツを着ている若者もいるくらい有名な例のベロマークをでかでかと配置しただけ。ペラい。ペラいぞ。内容は深いのにジャケットがペラいぞ。何かもっとこう、原点回帰的な内容だけにジャケットもブルースアルバムらしくクラシックな雰囲気にできなかったものか。確かに憂鬱な気分をブルーと言うしブルースの由来もそこにあると言われているが、実際にはブルースはとても人間的な温かさを内包した音楽なので、寒色でもある青は視覚的にはあまりブルースに似合わないと思うのだ。事実ブルースアルバムのジャケットでこれほど大きく青が使われているのは見たことがない。だから何かペラいぞ『ブルー&ロンサム』。例の如く内容が素晴らしいだけにああもったいない。
というわけで2020年最後はストーンズ最高の名盤とペラいジャケットで締めさせていただきました。2021年も引き続きペラい知識とペラい文章でお送りしますので良ければお付き合いいただければと思います。
それでは来年もペラいお年を。