ちあきなおみさんの棚にある方がしっくりきそうだ~T-ボーン・ウォーカー『シングス・ザ・ブルース』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第126回:ちあきなおみさんの棚にある方がしっくりきそうだ
明けた明けたと巷でもっぱら評判の2021年。僕はいまだに疑っているが、調和を愛する芸人としてここはひとつ空気を読んで言わせていただこう。
メリークリスマス。
というわけで今年もターゲット層バッラバラでおなじみの『音楽“ジャケット”美術館』、ゴキゲンに開幕である。そして開幕第一発目はブルースギタリストの大家、T-ボーン・ウォーカーさんのご登場だ。
T-ボーン・ウォーカー『シングス・ザ・ブルース』(1959年)
この連載では過去に純粋な黒人ブルースアルバムとしてバディ・ガイとサニー・ボーイ・ウィリアムスンを取り上げているが、そもそもブルース自体が若い衆にはほとんど需要がなく、ブルース世代のおじさまたちはネットをあまり見ない人が多いという意味で最大級に狭いターゲット層に向けたジャンルと言えるだろう。そんな回を新年一発目に持ってきてしまうオレまじヒゲメガネ。
T-ボーン・ウォーカーは戦前から活躍しているギタリストで、B.B.キングやチャック・ベリーといった後の大物ギタリストたちも大きな影響を受けた、名実ともに五つ星クラスの伝説的ギタリストである。そもそもブルースという音楽は憂鬱な感情を表現するものだけあって重く泥臭いものが多いが、そんななかT-ボーンのブルースはというと軽妙洒脱、ジャズ寄りのアプローチもあり都会的で非常に聴きやすいのが特徴的だ。それゆえ時代は古いがブルース入門者にもお勧めしやすい人かもしれない。ちなみに彼はブルースに初めてエレキギターを導入した人とも言われている。そのプレイスタイルに関して、ほぼ素人である僕は専門的な分析はできないが、個人的な印象では「似たようなフレーズが多いがそのなかで無限の表現力を持つ人」であり、実は僕が一番好きなギタリストでもある。
我らがリットー大王様のギターマガジンWEBのこちらの記事も面白いので見てみて。
勝手に認定、テキサス・ブルース5人衆
『シングス・ザ・ブルース』は彼の1950年~1952年の録音を集めたもの。粋でジャジーで軽妙なT-ボーンらしい洒落たブルースアルバムだ。ボーカルスタイルもそんな音楽性に見合った明るい声をもっているので、より聴きやすい印象を与える。ギターの占める割合はそんなに多くはないが相変わらず一発で彼とわかるそのスタイルはやはりギタリスト界の至宝だ。ただ個人的にこのアルバムでは彼にしては少々精彩に欠けるようにも思えたので、やはり彼のアルバムでまずお勧めするのは世の評判どおり『モダン・ブルース・ギターの父』だろう。あれほど完璧なアルバムにはそうそう出会えるものではない。
そしてジャケット。ブルースアルバムでこういった雰囲気のジャケットはちょっと珍しい。ぱっと見は日本の昭和のムード歌謡風である。ちあきなおみさんの棚にある方がしっくりきそうだ。ただ都会的でセンチメンタルな雰囲気漂うこのジャケットはT-ボーンの音楽性にはよく合っていると思う。画質が粗くてわかりにくいが、この彫刻のような美人は煙草をふかしているのではなく小さな花を持っているように見える。個人的にはブルースアルバムのなかでは屈指の良ジャケットだと思う。
というわけで新年一発目の連載は我ながら渋い幕開けとなってしまったが、遅ればせながら改めてご挨拶させていただこう。
メリークリスマス。