【大学時代にやったバイト・熊谷編2  郵便局】掟ポルシェ『男の!ヤバすぎバイト列伝』第10回

連載・コラム

[2016/3/23 12:00]

本連載はニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」のボーカル&説教担当、DJ、ライター、ひとり打ち込みデスメタル「ド・ロドロシテル」など多岐な活躍をみせる掟ポルシェが、男気あふれるバイト遍歴を語る連載である。すべての社会人、学生、無職よ、心して読め!!


【第10回】大学時代にやったバイト・熊谷編2  郵便局



 1988年から2年間、大学に通うため埼玉県熊谷市に住まねばならなくなった。「ねばならなくなった」と嫌々住んだ的なニュアンスで書いたのはほかでもない、ここが凶暴BE-BOP都市だったからだ。埼玉県の奥地で時間がゆるやかに流れているのか、流行の伝達も大幅に遅れ、渋カジが大流行していた時代にヤンキーファッションが熊谷ではまだ圧倒的支持を得て主流派を形成。道行く男性の7割がチャップリンもよもやのワタリ50cmはあろうボンタンを履き、尖ったエナメル靴の足音がズチャラと響く。パンチパーマ+鬼ゾリは熊谷カジュアル=KUMAKAZIの必要十分条件。山田うどん&くるまやラーメンの駐車場はシャコタンMARKⅡで常時満車。町中吐いた痰だらけでとにかく足の踏み場もない。


 ヤンキーすくすく育成シティでは、学校を立派に首席で中退した後、中古車センターか新聞勧誘のどちらかに就職。「全国制覇」を脳にインプリンティングした状態で仕事に臨むため、ついがんばり過ぎてしまい、友人宅に来た勧誘員がアパートのドアを開けるなり「新聞取れや~!」と言いながら友人の髪をクシャクシャに鷲掴みする様子をマジで目の当たりにして唖然としたことがある。陰惨なだけでヌケが悪く、北関東の悪いところ全部入りみたいな町だ。


 「こんなクソみたいな町、早く出てえよ……」
 留萌の高校から一緒の大学に進学し、熊谷に住んで二日目で新聞勧誘員に髪の毛をグチャグチャにされた洋介がそう言った。この町をクソだという権利を早々に獲得してしまい、晴れて大学に合格したというのに表情は漬物石のように重く暗かった。
「あと2年もここに住まなきゃなんねえって、ホント地獄だよな……」
 口を開けば爆裂地方都市熊谷の悪口しか言えない状態になっていたのは俺も同じだった。北海道の田舎町の出身だった俺は、一応東京に隣接する県なので埼玉もそれなりに開けていて、文化にあふれているのだろうと思っていた。それなのになんだ、ここは。「野壺にいつの間にか人が住み着くようになりほっといたら町になっていた」程度のものではないか。中途半端に都会と距離が近い町には都会への憧れも幻想も生まれない。俺の住む凶悪アパート(新幹線の高架下に所在)から洋介の凶悪アパート(便所と居間のあいだの壁に大きな隙間があいていて、生活スペースのすべてにウンコの臭いが漏れてくるスカトロジストしか喜ばないおまけ付き)へ一緒に夜道をトボトボと歩きながら、熊谷に住まなければならない運命を呪った。舌打ちをする元気もなかった。
 そのときだった。50mほど前にある新幹線高架下の駐車場から、ササッと素早い足取りで逃げるように走り去る人影が見えた。ひと気のない暗がり+俊敏な動き=これはいったい……? と頭にクエッションマークを浮かばせた、次の瞬間。

『 ドーーーーーーーーンッンッンッッ!!!!!! 』


 人生で初めて聞く巨大な爆発音に驚いて本気で「ぅわーーーッッ!!!」と声が出た。何が起きたのかまったくわからない。まだ北海道の田舎から来て二日目の高校生ふたりだ、経験値のなかに「駐車場+爆発」の文字はない。というかそんなのある方がおかしい。少しだけ駐車場に近づいてみると、停まっていた一台の軽自動車がボンボン燃え、そこから勢い良く火柱が立ち上っている。あまりの出来事にしばし呆然。


「おい、なんなんだ、これ……」
「わかんねえ……マジか……」
「……どうする?」
「警察に言った方がいいのかな……」
「いや……やめとこう」
「そうだな……」


 暗いし遠いしで犯人の特徴もわからなければ、この軽自動車が黒煙を上げて燃えている意味がなんなのか理解できてない俺たちが、事情聴取されたところで言えることなど何もなかっただろう。ただ、この町が長閑な田園都市などでは絶対になく、一筋縄ではいかない異常性を孕んだ怖い場所であることだけは実感した。
 得体のしれない薄気味悪さが足元に縋り付いていたので、事件現場からそんなに距離のない洋介んちにかなりの時間をかけて辿り着いた気がした。俺たちの通う大学、なんでこんなところにあるんだろう……。

 翌日、恐る恐る現場を通りかかってみると、ブスブスに焦げたex.車らしきものの残骸だけがそのままそこに放置してあるのが見えた。背景が線路と鉄柵の殺風景だけに、間違っても高尚なアート作品には見えない。
 さらに数日後、土地の所有者と思しきJRが巨大な立て看板を設置してあった。そこには、こう記されていた。

“気をつけよう 暗い夜道と テロ・ゲリラ”


 流行10年遅れで伝達当たり前の熊谷には、無差別爆弾テロを仕掛ける過激派が80年代も終わろうというのにまだしつこく存在していたらしく、犯行はそいつの仕業とのことだった。ヤンキーだけならまだしも爆弾魔までいんのかよ熊谷は……。暗くヌケの悪いここいらの気質にうんざりするとともに、一見標語然としたその看板を目にして、「テロなんてそんなもん気をつけようがねえだろ!」と口に出してツッコんだ。おそらく、遭遇しなくていい類の人生経験であることは確かであった。

 熊谷では、主に深夜の郵便局仕分けバイトをやった。仕事自体は単純作業でそつなくこなしたが、同じ業務に従事する少し歳上の深夜バイトたちの会話が、新しいタバコの味の話(うまいかうまくないかというぼんやりとした比較)や、特にファンというわけではなく惰性で見ている野球の結果(巨人が勝ったかが話題に上るもその事実だけ確認して終了)だったりで、まったく入っていく気になれなかった。いまもあの「きょう日本シリーズあるーん?」「そうなーん?」という無意味な確認のダウナーなトーンを思い出して陰鬱な気分になるが、なんだかんだで最近では熊谷在住時のことまで懐かしい思い出になったりしていて、時の流れとは恐ろしいものだなと思う。

大学時代にやっていたバンド(ボアダムスの影響をモロに受けすぎてほとんどパクリ)のデビューライブ。曲が足りない練習も足りないということでアントニオ猪木の着ぐるみをレンタルしてきて乱入させごまかそうとしたら、なぜか中1の女の子3人にだけ異常にウケた。衣装はセブンイレブンの袋を切ったやつ。通気性ゼロで死ぬかと思った


【著者紹介】

掟ポルシェ
(Okite Porsche)
1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社刊)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン5刊)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど、活動は多岐にわたるが、なかでも独自の視点からのアイドル評論には定評があり、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。

[耳マン編集部]