【大学時代にやったバイト・東京編 某大学病院の院内清掃】掟ポルシェ『男の!ヤバすぎバイト列伝』第11回

連載・コラム

[2016/4/13 12:00]

本連載はニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」のボーカル&説教担当、DJ、ライター、ひとり打ち込みデスメタル「ド・ロドロシテル」など多岐な活躍をみせる掟ポルシェが、男気あふれるバイト遍歴を語る連載である。すべての社会人、学生、無職よ、心して読め!!


【第11回】大学時代にやったバイト・東京編 某大学病院の院内清掃



 1990年、某大学に進学した俺は、3年次から東京の校舎に通うことになり、ソドムとゴモラのどっちかに該当する関東を代表する禍々町・熊谷から晴れて中野のアパートに引っ越した。あの巨大な痰壺のようなネバネバとしたヘドロ集落を抜け出て、ようやく真の都会生活がスタートした気がした。


 「東京で遊ぶため」。当時若者たちの大学進学理由の最たるものがそんなナメた許しがたいものであったと言ったら、さまざまな余剰を知らない若い世代は信じられないだろうか。俺自身、ヘッペの都・東京に来たからには、乳首が真っ黒になるぐらいメチャメチャ遊び倒したる! と思ったものの、なんというかまぁおもいきり童貞だったので、女っ気ゼロのライブハウスに遊びに行って頭の沸いた異常な男たちによるバンドのライブを観る程度が限界であった。乳首真っ黒計画については、曲がったストローで自分で吸うことで対処するはずが、吸引しても自分の気持が盛り上がらないので即刻中止。おかげでいまも乳首はパステルピンクを維持している(※要確認)。


 さて、問題は大東京でバカスカ遊びまくるための遊興費をどうするかだ。バブルど真ん中で、学生の腰掛けですら結構な小金を稼げる楽々バイトが世にあふれていた幸せな時代。とはいえ、ダルいから働きたくねえなどうすっかな、家で寝てても金入ってくる業務とかホントねえかなと思いながら、家のテレビで録画した『ドキュメント女ののど自慢』のよりぬき作業に忙しくしていた。そんなある日、大学の美術部の友人のY島から、某大学病院の清掃バイトの話をもらった。大学が休みの日に連勤するとそれなりにいい金になるとのことで、ふたつ返事でホイホイ繰り出した。


 それなりの高収入で楽なこの仕事に俺が入れた理由はすぐにわかった。それは、俺がバイトに入る2週間ほど前、某大学病院が新聞各紙を賑わせていたことに関係する。院内の実験で出た放射性廃棄物を中庭に穴掘って適当に捨てていたという、スーパーいい加減事件が発覚したのだ。微量な放射線量だったとはいえこれはさすがに大問題になったが、ギリギリ昭和で時代が雑だったため、件の中庭にバリケードが張り巡らされ立入禁止になったとかも特になく、廃棄場所がどこなのかさえ俺たちに知らされることはついぞなかった。だからバイトの枠空いてたのかよ、最悪じゃねえかこれ……。踏んでるかどうか不明なままの見えない地雷原では、気にしないかヤケクソかのどちらかの気分でいるしかない。とまれ、山程手を抜く理由にはなった。杜撰には杜撰をもって立ち向かうのだ。


 作業服を着て、マスクと手袋、髪の毛を落とさないよう紙製防護キャップをかぶり、簡易完全防備で某大学病院の中に入る。清潔を保たなければいけない空間だけに、モップに着けたクリーニングシートには塵や埃もほぼ付かず、まったく手応えのないままモップの柄をカラカラと左右に動かした。汚れていない場所を掃除するという行為にシュールを感じ、あくびが出た。


 たまにシフトに入る何人かの中国人バイトがいて、そいつらがとにかく仕事をサボってファンタ飲んでばっかりで何もしなかった。そのくせフン!とでも言いたげな不遜な顔の表情をキープしていてなんだこいつらと思った。奴らが働かないのは、「昔、日本人は中国人に散々酷いことをしたのだから、何もせず金だけもらって当然だ」ということらしかった。働かない理由が南京大虐殺!? 江沢民体制になり反日教育が激化した結果、俺たち日本のバイト先の同僚の仕事が増えるという、風が吹けば桶屋が儲かって多角経営でハワイのゴルフ場開発に乗り出した的無茶な飛躍に納得がいかず、そっちがそのつもりならこちらはお前らの倍怠けることで対抗してやる! と間違った意欲を燃やすことにした。次第に病院全体が薄汚れていった。

尊敬する北村昌士先生と。一緒に写真を撮ってもらうだけで緊張して顔が貧相になっている。ホワイト・ゾンビのTシャツにナパーム・デスのキャップという一張羅&100年プリントで焼いてる辺りにトランス・ガイズとしての本気度が伺える


【著者紹介】

掟ポルシェ
(Okite Porsche)
1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社刊)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン5刊)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど、活動は多岐にわたるが、なかでも独自の視点からのアイドル評論には定評があり、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。

[耳マン編集部]