「あのグループを根絶やしにしたい……!」事務所社長に110万円だまし取られかけたご当地アイドル~元アイドルインタビュー第3回~
毎日のように流れてくる、知らないアイドルの卒業発表ツイート。アイドルを辞めた女の子たちは今どこで何をしているんだろう?
サヤカさん(仮名)は25歳で医療関係の仕事に従事している。彼女は専門学校に通っていた頃に地元のライブカフェで働き、そこからご当地アイドルグループのメンバーとしてデビューしたそうだ。色白の大人しそうな容姿に反して、明るくハキハキとした口調で、さばけた性格を感じさせる。アイドル時代に出会っていたらハマっていたタイプだろうなとぼんやり考えた。
彼女は、グループのプロデュースも担当していた所属事務所の社長に危うく110万円をだまし取られるところだったという。
社長に“洗脳”されていた
ライブカフェで働こうと思ったのは、歌うことが好きだったので、「歌ってみた」レベルの活動ができたらいいという程度の気持ちからだった。でもカフェで働き始めてから間もなくデビューが決定し、そこから半年足らずで彼女は本気で全国を目指すようになる。カフェには週6で出勤し、一時は活動に専念するため退学しようと真剣に考えていた。一体何が彼女を変えたのだろう?
「結論から言うと、洗脳されていたんですよね。私が辞めたのも、洗脳が解けたからなんです。グループが事務所の社長を中心とした宗教みたいになっていて。毎日毎日『お前たちは全国レベルの実力がある。ひとりひとりの個性は、たかみなにも匹敵する!』って言われてたら、最初はメンバーも笑っていても、だんだんその気になってきちゃうんですよ(笑)」
ただその話だけ聞くと、メンバーのモチベーションを上げる良い運営のようにも感じるけれど……。
「社長、詐欺師なんです。いろんな人からお金を借りては踏み倒しているみたいで、社長の名前で検索したら、詐欺被害のページとか出てくるんですよ(笑)。お店に『社長出せ!』って人が来て、なんとか女の子たちで対応したり。とにかく口が上手かったんです」
でも洗脳されていた当時は、そういったトラブルについてもよく知らず、社長がおかしいとはゆめにも思わなかった。デビューしてすぐ有名企業のCMに起用されたこともあり、「この人についていけば大丈夫」と心底信頼していたという。
「そこからは無茶苦茶だったんですけどね。嘘ばっかりなんですよ。『24時間テレビに出られそうだったんだけど、ギリギリでダメだった』とか『ボランティア活動でPRして、ユニセフを味方につける』とか。でも当時は信じ切ってたから、そんな話あるわけないだろって思わずに、やっぱり社長はすごいなって素直に受け止めちゃった」
運営に違和感を覚えて、いち早く脱退するメンバーはいたものの、サヤカさんは社長を信じて、グループで全国を目指し続けた。
キャッシュカードを作らされ……
それでも洗脳が解ける大きなきっかけとなる出来事が起こる。あるとき、サヤカさんは社長にひとりだけ呼び出された。なにかソロで仕事が入ったということだろうか? 期待するサヤカさんに社長が言ったのは――。
「350万円貸してくれ」
社長はグループ存続のためだとして、いかにもな理由を説明してきた。今考えるとなんだかおかしい理屈だったのだけど、まだ学生だったサヤカさんは「そういうものか」と納得してしまった。けれどサヤカさんが、そんな大金を持っているわけはない。でも一対一の状況、活動存続のためという言葉が彼女の判断力を狂わせた。しかも社長は今助けてくれれば相応のお礼はすると言っている。尊敬する社長が踏み倒すなんてわけがない。サヤカさんは言われるままに、金融会社でカードを作り、上限いっぱい50万円を借りた。また貯金60万円も一緒に渡し、社長とは「○日に金を返す」という契約書を交わした。
……期日になっても金は40万円しか返ってこなかった。「残りもすぐ返ってくるだろう」とそこまで深刻に考えていなかったサヤカさんも、時間が経っていくにつれて、次第に不安になってきた。社長からは借金について他言しないよう脅されていた。だけど金は返ってこない。作ったキャッシュカードはなぜか社長に管理されている。利子は着々とついていく。半年悩んだ末に、意を決して県内に住んでいた叔父と叔母に相談した。もちろん叱られたものの、それでもふたりは味方になってくれた。いかんせん相手は口が上手いので、自分ひとりだと言いくるめられかねない。そのため叔父も一緒にいることは伏せて、社長を呼び出した。その場で、グループを辞める意志も伝えて、数日後に残りの金が無事返ってきたそうだ。サヤカさんは一連のトラブルをこう振り返る。
「私が成人していたのと、あと実家暮らしじゃなかったから狙われたんだと思います。でもお金が返ってきたから、今笑って話せるんですよね。家族には、事務所の社長にだまされかけたなんて死んでも言えないです。親は、娘はアイドル活動を普通に辞めたと思ってるんじゃないかな。叔父さん叔母さんも、なかったことにしてくれてます(笑)」
ファンを守りたいのに叩かれる
交わした契約書もなぜか社長に管理されていたけれど、「今後裁判沙汰が起きたとしたら、絶対に必要なものだ」と考えて、休みの日に店に忍び込んで、なんとか確保した。サヤカさんは「いつか武器になるかもしれないから」と大事そうに契約書を見つめる。
サヤカさんが所属していたグループは現在も存続している。ファンは運営に関する噂を耳にしても、知らないふりをしているようだ。社長の人当たりの良さもあって半信半疑なんだろうとサヤカさんは言う。
「私はあのグループを根絶やしにしたいんですよ。だからSNSなんかで、ヲタクの方にそれとなく実態を伝えようともしたんですけど、辞めた奴が僻んでるとしか思われなくて……。なんていうか、私は正義の道を行きたいんですよね。アイドルのときは本気で全国目指してたし、ヲタクの方も私を信じてついてきてくれてると思ってた。でも辞めた人の言葉ってもう響かないんですね。私を応援してくれたこと本当に感謝してるから、皆のことも守ってあげたいと思ったんだけど、ネットで叩かれちゃって。やるせないですよね」
サヤカさんはもうアイドル活動に一切興味はない。ただMCの経験を通じて、ラジオパーソナリティや観光大使など人前で喋る仕事に憧れを抱くようになった。
「難しいと思いますけどね。……私、洗脳されていたとしても、全国行きたいって気持ちは本当だったんですよ。本気だったからこそ今でも恨みが消えないんです。女の子の夢を悪い方に利用するっていうのは、本当にダメだと思う。本当にそういうのはやめてほしい……」
インタビュー後せっかくなので、そのライブカフェを訪ねて、サヤカさんがかつて所属していたグループのステージを見てきた。原稿にできないような部分も聞いていただけに、果たしてライブを楽しめるだろうかという不安もあったけれど、ステージの上の彼女たちは確かに輝いていた。こちらの「どうせ地方の地下アイドルだ」という気持ちをはねのけて、きらきらと歌い、踊り、ファンも大きな声援を送っていた。そこはどう見ても幸せな空間なのだけど、私は知ってしまっている。この場所の裏に渦巻くものを。彼女たちにとって本当の幸せって、何? ライブが終わり、ファンもメンバーも先ほどの熱狂の余韻に浸りながら物販が始まろうとするなか、私は逃げるように店を出た。なんでこっちが泣きたくなってるんだよ。
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