「他人が怖かった」前田明日美、“前田敦子”と“ラーメンズ”から始まった異色のアイドル活動の行方は……?~元アイドルインタビュー第4回~

連載・コラム

[2016/10/25 17:30]

毎日のように流れてくる、知らないアイドルの卒業発表ツイート。アイドルを辞めた女の子たちは今どこで何をしているんだろう?

神奈川・黄金町エリアの路地裏に6月オープンした喫茶店『カフェ・リーベルテ (cafe libert'e)』を営むのは、23歳の前田明日美さんだ。10代にも見える童顔だけど、落ち着いた雰囲気は、確かにカフェの女店長というのがピッタリ。でも実は彼女は2010年から2016年3月までの6年間、ソロアイドルとして活動し、しかもコント的な演出を取り入れた笑えるライブを行っていたというから驚きだ。お笑い好きの根暗な少女は、アイドルになってどう変わったのか? そして彼女が収めた“完全勝利”とは?

ネットでいきなり個人撮影に誘われて……!?

前田明日美さん

アイドルになったのは、前田敦子への憧れがきっかけだった。

「アイドルに全然興味なかったんですけど、前田さんの顔がすごく好きで……。それで髪型やメイクを真似した自撮りをブログにアップし始めたんです。そしたらカメラマンの方からメッセージで撮影に誘われたんです」

見ず知らずの相手からの撮影の誘いに乗るとは、向こう見ずすぎないか!?

「15、6歳の何も怖くない時期だったんですよね(笑)。そこからモデルを頼まれるようになって、しばらくしたら他の人から今度は『アイドルライブをやってみない?』って誘われたんです。それが最初のステージでした。緊張してたし、ライブなんて初めてだからMCのやり方も知らなくて、ただステージに立って歌って終わり。曲も何を歌っていいかわからなくて、東京事変の『透明人間』とかを歌いました」

それからオファーが来るようになり、気づけばアイドルになっていた。成り行きのような形ではあるけど、やがて独自路線のライブを行うことで知られるようになる。

「もともとお笑いが好きで、小学生の頃なんかは芸人さんに憧れていたんです。だから自然と『おもしろくないといけない』っていう方向に考えが行ったんでしょうね。MCで落語みたいなことをやってみたり、あと仮面をかぶって1曲歌って、やっと仮面を外したと思ったら下にまたパックを張っていたりとか。アイドルって結局顔だから、逆に顔出ししないでライブをやってみたらおもしろいかなって。もちろん歌に聞き入ってくれるのも嬉しいけど、お客さんが笑ってくれるのが嬉しかったんです」

好きな芸人は“作り込み系”のラーメンズというだけあって、前田さんのステージへのこだわりは強く、セトリを決めるのは当日。他の演者を見て、「今日はバラードを歌う人がいないから全曲バラードにしてみよう」「今日はかわいい系ばかりだからロックで固めてみよう」など観客の裏をかけないかギリギリまで考えた。一時期は月に25本のライブをこなしているうちに性格まで変わってきたという。

「もともと目立ちたがり屋なのを、チキンだからずっと抑えていたんです。それがバーン!とハジけたのかな。母親が一番びっくりしていますよ。それまで本当に暗くて喋らなくて、ずっと家にいるような生活だったんで」

前田さんはアイドルになる以前をこう振り返る。

「他人が怖かったんでしょうね。人と関わってこなかったからこそ、自分が受け入れられるのかわからなかった。でもアイドルとして人と関わっていくうちに、受け入れてもらえるじゃん!と思えたんです」

アイドルの“病み”アピールに「それっておもしろいの?」

前田さんは2015年2月より無期限の活動休止に入った。半年足らずで復帰したものの、昨秋に2016年3月20日の6周年記念ワンマンライブをもって引退することを宣言した。限界が来たというよりも、限界が来る予感のようなものを感じたからだった。

「ハタチ過ぎたらアイドルとしては難しいっていう思いもあったし、何より『これ以上おもしろくできない』って感じたんです。来たら絶対楽しませてみせる、ライブの構成とか何も考えずに歌っているアイドルより私は絶対おもしろいっていう自信があったんですけど、全部出し尽くしちゃったかなと」

ところで前田さんは、他のアイドルの“辞め方”に対して違和感を覚えることが多かった。

「アイドルに対してお客さんは多かれ少なかれ夢を見ているわけじゃないですか。なのに最後の最後に、オタクと繋がっただのリスカだのなんだの。お客さんはそんなの求めてないですよ。『病んだ』とか言って心配してもらおうって気持ちはわかるけど、それっておもしろいの? やっぱりアイドルである以上は、笑顔にしないといけない。そこまで追いつめられる前に、お客さんも楽しかったなって思ってくれる間に終わる方がお互い幸せじゃないですか?」

トラブルを匂わせて消えていく、お客さんを笑顔にできる力はもうないのに続けていく、そんなのはごめんだった。

「おもしろいって言われたくてアイドル続けていたんで、おもしろくなくなってきたら、飽きられる前に辞めちゃいたい。いつの間にか消えていたり急に辞めていった子って、すぐ忘れられちゃうんですよ。『活動縮小して続ければ?』とも言われたけど、そんなモチベーションの低い状態でアイドル続けても、絶対に忘れられるし、私的にはそれはもう“アイドル”じゃない。……最高地点で辞めたら“前田明日美”っていう名前はずっと覚えていてもらえるのかなって思ったんです」

前田さんは自身のアイドル生活を「100点」と語る。

「私ほど活動中なんのトラブルもなくアイドルを辞められた人は多分ほかにいません。本当にお客さんのおかげだと思っています。私を受け入れてくれたから、やれたんです」

地下アイドル業界に漂うなあなあな雰囲気、引退時にトラブルが起きるのは当たり前という空気のなかで、美しくラストライブまで終えることができた。前田さんは「勝った」という感覚を覚えている。

「私にも、あなたにも、この先には未来がある」

『カフェ・リーベルテ』の前で

引退後は縁あって飲食店を任せられることとなった。前田さんは「もともと私は暗いんで、オシャレなお店よりは、落ち着くお店にしたかった」と語る。

「私がおもしろいこと言わなくても、カフェとしてのサービスをすればお客さんは来てくれるんですよ。ライブと違って、私の生活にお客さんが入ってくるって感じなので新鮮ですね。もちろんファンの方もいらっしゃいますが、元アイドルのお店ってアピールするよりは、アイドル時代を知らない地元の方々にも愛されるお店にしていきたいです」

店内

……実は8月末に『カフェ・リーベルテ』は急きょ閉店が決まり、図らずとも写真は、店の最後の通常営業日を写したものとなってしまった。前田さんは現在、某所でカフェ店員のバイトをしながら、大好きな地下アイドル・姫乃たまの現場にいちアイドルオタクとして通って毎日を過ごしているそう。「引退した後のほうが波乱だったかもしれません(笑)」と明るく近況を伝えてくれた。

筆者はデータとして読み始めた前田さんのブログの内容がおもしろく、今さらファンになってしまったのだけど、ラストライブの告知記事ではこう書かれていた。

「引退というのはとても悲しい言葉なのかもしれない。でも、私にも、あなたにも、この先には未来がある。そんな未来へ希望を持てるような、笑えるような。3/20はそんな1日にしようと頑張っていきます」

前田さんはアイドル活動を「100点」と振り返るけど、その点数を120点、200点と更新するような幸せな出来事がこれからどんどん起きてほしいし、未来には希望しかないなと感じながら毎日過ごしてほしい。推しにこそ卒業したら、アイドル時代の思い出が吹き飛ぶくらいハッピーになってほしいと思っている。だってアイドルを辞めても人生はずっとずっと続くのだから!


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[取材・文 / アイドルライター原田イチボ@HEW]