枕営業暴露で同じアイドルの恨み買った? 野中比喩、“虚偽通報”の嫌がらせを振り返る~元アイドルインタビュー第5回~
毎日のように流れてくる、知らないアイドルの卒業発表ツイート。アイドルを辞めた女の子たちは今どこで何をしているんだろう?
テルミンを生で見たのは初めてだった。持ち主である野中比喩(のなか・ひゆ)さんは、リハーサル直前の忙しい時間にも関わらず「これはモーグ(moog)というメーカーのもので……」と笑顔で説明してくれる。彼女はテクノユニット・トキノマキナのボーカルや特殊メイクアーティスト、モデルなどマルチに活躍中。かつては傷メイクを得意とする“ケガドル”として大阪を拠点にアイドル活動を行っていた。
野中さんは2013年10月にフジテレビ系『アウト×デラックス』で、アイドル界の枕営業について暴露したが、そのせいで悪質な嫌がらせを受けることとなってしまった。
虚偽通報で事情聴取された
「番組の反響は悪い方向に大きかったですね。放送直後にライブをしたんですけど、翌日警察から『あなたがお客さんに自傷行為を強要したり、リストカットのパフォーマンスを行ったという通報があった』と連絡があったんです。それで事情聴取を受ける羽目に……。そういう嫌がらせがこまごまありました。多分実際に枕をやったり、枕を疑われたアイドルの子がやってたんとちゃうかな。2ちゃんねるに『あいつのせいで自分が疑われているけど訴えることはできますか』っていう書き込みもあったんですよ」
なぜ野中さんは枕営業を憎むのか? それは2006年スタートと活動歴が長いため、ほかのアイドルから相談を受ける機会も多く、そのなかで枕営業の実態を知っていったからだった。
「枕営業で仕事をとられた子たちの相談に乗っていたんです。映画監督が枕で主演を替えるとか、そもそも恋愛事を仕事に持ち込むのがダサいし、自分の作品への愛もなくなってるやん。あとオーディションの楽屋で審査員が『あの子とヤッてん』みたいな話をしているのを聞いたこともあって、ウソやろ!?って。夢見てアイドルやっている子が多いと思うんですよ。その夢を食い物にする大人がいるって、やるせない気持ちになる。若いうちからアイドルになった子なんて世間を知らんから、まわりの大人が簡単に洗脳できちゃいますしね。これ以上才能を踏みにじられる子が増えてほしくないんですよ」
枕営業によって才能を踏みにじられる少女たちの味方につき、少女の夢を食い物にする大人たちに怒りを感じる野中さん。では、枕営業を行っている側の少女に対しては、どんな思いを抱いているんだろう?
「自分のファンに対してうしろめたい気持ちがなくて、後々ややこしいトラブルにならなくて、自己責任でやってるんやったら全然いいと思うんですよ。その人の人生なんで。でも、あの子枕やったでって話を聞いた子は全員消えていますね。だから別に枕をやったら即成功っていうわけでもない。自分がどういう風に人生過ごしていきたいのか、まず冷静に考えてみたほうがいいと思います」
野中さんは「自分は枕をしていないとアピールするために、枕営業反対を訴えているだけなんじゃないか?」と批判されることも多い。それでも枕営業への怒りを表明していくのは、アイドル界全体への祈りがあるからだ。
「こういうことをメディアで伝えていけば、現役のアイドルの子たちも冷静に考えてくれて、枕営業が少しでも減るんじゃないかと思っているんです。私はイロモノで叩かれるのは慣れていますから。アイドル業界には少しでもクリーンな場所であってほしいんです」
カルチャーの見本市目指す
野中さんが芸能活動を始めたのは2006年のこと。アーティストとして発表の場を探し続けて、見つけたのが“アイドル”という活動スタイルだった。
「傷メイクとか現代アートをやりたかったんですけど、グロテスクな作品の展示となると、カフェ併設のギャラリーはNGだったりするんです。自分の作品をより多くの人に見てもらうために、じゃあアイドル名乗っちゃえ!と。音楽は好きですし、あと暴れまわっても崩れないということで、傷メイクの耐久性をアピールするのにもライブはうってつけでした」
野中さんは2014年2月、祖母の介護に専念するため所属事務所を退所し、さらにブログで「表現活動として。アイドルやめます」と宣言した。とはいっても現在もステージに立つことは続けており、人によっては「今だってアイドルじゃないのか?」と不思議に思うところだろう。
「世間の“アイドル”のイメージと自分のズレが苦しくなってきちゃったんですよね。年も重ねて、世間的に見ると、私は自称アイドルの部類になっているなと。アイドルイベントに呼ばれてもお客さんのニーズと違うから、表現としての楽しさよりも苦痛が勝ってきちゃって」
では、現在の肩書は?
「それが今困っているところなんです(笑)。皆これが好き!ってなったら、それに関する情報ばかりピックアップしてしまうけれど、ちょっと視野を広げてあげるだけで面白いことになると思うんですよ。たとえば傷メイクの仕事のときに私が『実はアイドルなんです』と名乗ったことでアイドル現場に足を運んでくれた人もいるし、逆にアイドル現場でノイズをガンガン流したときに『こういう音楽があるんですか!?』って驚いてくれた人もいる。世の中にはこういうものがあるんだよっていう見本市のひとつになりたいなと思っています」
『ミスiD』に感謝(!?)トキノマキナ結成秘話
野中さんが現在力を入れているのが、岡係長とのふたり組テクノユニット・トキノマキナの活動だ。“遠隔宅録ユニット”とは一体どんなコンセプトだろうと思っていたら、まったく文字どおりの意味。野中さんは関西在住、岡係長は関東在住で、野中さんが自身の歌声の音源を岡係長に送り、係長はそれを加工するという形で楽曲制作を行っているからだ。
少々特殊な形での活動となったが、もともと音楽に携わる仕事をしていた岡係長は「音源のやり取りは仕事でもよくあることなので、できるだろうと思いました」と語る。むしろ歌声を加工することを嫌がられないかと不安を感じていたけれど、野中さんは“ボーカロイド役”になることを快諾し、トキノマキナ結成となった。ふたりが初めて顔を合わせたのは昨夏のこと。初対面の裏には、あのアイドルオーディション『ミスiD』がほんの少しだけ関わっていた!
「実は去年応募して、一次審査通ったんですよ。それでカメラテストのために上京したとき、ついでに係長と顔合わせしたんです。ある意味『ミスiD』のおかげで会えたので、落ちたにしてもきっかけをくれた講談社さんには感謝しています(笑)」
初ライブは2016年2月で、現在は1ヵ月に2、3回のペースでライブを行っている。でも、ふたり並ぶと正反対の雰囲気。よくこのふたりがユニットを組んでいられるな、という考えも頭をよぎったけど、トキノマキナの音楽ジャンルについて尋ねたときの岡係長の言葉で腑に落ちた。
岡係長「ジャンルとかカテゴリとか、自分で決める部分じゃないと思っているんです。自分たちの作品を見た人が決めることじゃないでしょうか。元アイドルとして見る人にとっては比喩さんは元アイドルだし、特殊メイクアーティストとして見る人にとっては特殊メイクアーティストだし、自分で自分を決めちゃいかんと思うんですよ」
★トキノマキナの初ツアー「下町ロボット出張営業ツアー」が開催決定! 来年1月21日の東京・阿佐ヶ谷イエロービジョンを始め全国3カ所を巡る。また11月25日には、野中さんと“物理学者の菊池誠教授”による即興サイケノイズユニット「ライトノヴェルズ」出演のライブが大阪・難波ベアーズで開催。詳細やその他のスケジュールは、野中比喩の公式Twitterアカウントをチェック!
『耳マン』ではインタビューにご協力くださる元アイドルの女性を募集しています。所属していたグループの規模は問わず、また匿名・顔出しなしの出演で構いません。ご興味のある方はこちらまでお気軽にご連絡ください。