関西で活動する眠ヶ原メタモル、アイドル卒業の理由は「日本橋と縁を切りたい」~元アイドルインタビュー~
毎日のように流れてくる、知らないアイドルの卒業発表ツイート。アイドルを辞めた女の子たちは今どこで何をしているんだろう?
大阪・日本橋で活動する眠ヶ原メタモルさんは、現在は一般企業で働く傍ら、アイドルユニット・BeautyBrilliantAngleの“歌うスタッフ”としてステージに立っている。けれど、今年9月末でスタッフとしての活動も終了するという。そこには、「日本橋と縁を切りたい」という切実な思いがあった。東京のドルヲタにとっては、せいぜい「関西の秋葉原」という程度のイメージしかない日本橋。眠ヶ原さんは、メイド、アイドルとして日本橋の舞台裏を見てきた――。
未成年メイドがタバコを吸うメイド喫茶
現在28歳の眠ヶ原さんは、もともとはメイド喫茶で働く“メイドさん”。店の企画をきっかけに2008年からアイドル活動をスタートさせた。メイドを始めた理由については、「正直チヤホヤされたかった」と冗談めかして語ってくれた。しかし、メイド喫茶の仕事はなかなか過酷なものだったらしい。
「いくつかのお店を転々としたんですけど、あるお店で働いていたときにストレスで顔面神経痛になっちゃったんです。そこではメイド長のポジションだったんですけど、普通のメイドにプラス100円の時給で、シフト組みから採用面接、仕入れ、新人教育までやらされるんです(笑)。家に帰れない日も多くて、近所のネットカフェで深夜シャワー浴びて、また店に戻って仕事するみたいな」
眠ヶ原さんを一番悩ませたのは、メイドたちの素行の悪さだった。
「未成年の子が店の休憩室でお酒飲んだりタバコ吸ったりするんですよ。『店に迷惑かかるから絶対やめて』とは注意したんですけどね。そういう一般常識がない子が多い! ほかのお店の話だと、根性焼きの跡があるようなヤンキーっぽい子がいたんですけど、勝手に私の私服を着て汚したのに、何も言わずそのまま戻してきました。あとは店閉めた瞬間にメイドが皆タバコ吸いながら客の愚痴言い始めたり。高校生の子が『客の金なんて全部巻き上げればいいじゃん』とか言っているんですよ。夢壊れますよね……。ほかの店なら、ちゃんとした人がいるかもしれないと思って店を転々としました」
「チヤホヤされたいからメイドになった」と言うわりに、眠ヶ原さんはかなり真面目だ。今度こそはと期待してはガッカリさせられ……とメイド業界をさまよい、最後に働いた店が一番気持ちよく働けたという。「ここでキレイに終わりたい」と考えて、その店で卒業イベントを開催した。イベントは、メイドとしての自分の“お葬式”だったという。
「こいつも一応アイドルだ、でも私もアイドルだ」
アイドル活動は楽しかった。店の企画で組んだユニットでは、いかにもアイドルな振る舞いをしていたけれど、店を離れてからの活動では、ロックテイストの楽曲を歌い、自由な表現をしていた。シンガーではなく“アイドル”として活動していたのは、やや諦めの部分がある。
「どうしても主催者はアイドルを推したイベントを作るし、シンガーも出演するイベントだったとしても、やっぱりお客さんから見たら全員“アイドル”。自分はアイドルのつもりじゃなくても、お客さんからしたら違いはわからないですよね。シンガーとの境界はなんだろうと考えたら、曖昧な部分もあるし。じゃあアイドルでいいやって」
「もっとアイドルらしく」とダメ出しされることも少なくなく、眠ヶ原さんはずっと「アイドルってなんだろう」という悩みを抱えていた。そんな中、あるアイドルとトラブルになったことで、ある意味アイドル卒業への背中を押されたそう。知り合いのアイドルが愚痴ツイートをしたのをきっかけに、関係者に殺害予告をするファンが出ていたのを見て、眠ヶ原さんはそのアイドルを注意した。すると、今度はそのアイドルのファンが眠ヶ原さんを叩いてきたのだ。
「お客さん使って嫌いな相手を叩いたり、やっていることが高校生。こいつも一応アイドルだ、でも私もアイドルだ。えっ、こいつと一緒なの?と思ったんです。私はアイドルとして立つステージを“ステージ”として意識していたんですよ。でも彼女たちのステージは、ただの踏み台くらいの高さ。一緒のところに立ちたくない。10cmと1mを一緒にされたくないと思ったんです」
大阪・日本橋で目撃した舞台裏とは……
アイドルを辞めたいという思いから、昨年末より肩書を“歌うスタッフ”に変更し、多少は楽になった。しかし、9月末でその活動も終了する。今は、日本橋で活動するアイドルを取り巻く環境への嫌悪感が強い。「もちろん、ちゃんとした人もいますけど」と前置きした上で、眠ヶ原さんは日本橋の一部のアイドル事情を明かす。
「アイドルとお客さんの距離が近すぎるっていうか異常(笑)。もちろん演者と観客の距離が近いのはいいことでもありますけど、アイドルに何かトラブルが起きたから、ファン皆で相手を攻撃しようっていうのはおかしな話ですよね。でもそれが彼女ら、彼らの中で当たり前になっているんです」
東京のドルヲタだと、地下アイドルの運営=元バンドマンというイメージを持っている人が多いかもしれない。でも、日本橋で活動してきた眠ヶ原さんは違う印象を持っている。
「日本橋って、ヲタクが趣味で運営になるケースがあるんですよ。そのせいか、ずさんなイベントが本当に多くて、主催者が当日ライブハウスに来なかったりするんですよ。開始時間になっても来ないくせに、Twitter見たら何事もなくツイートしてたり、ほかにもタイムテーブルを前日に送ってきたり、楽屋でアイドルと一緒にほかのアイドルの悪口言っていたり」
眠ヶ原さんは、「そんななかでちゃんとしようとしても悲しくなってきますよ」とこぼす。
「カラオケ音源で、モニターで歌詞を見ないと歌えませんっていうアイドルもいるんです。昔キレたのは、初めてのライブなのに音源持ってきてなかった子(笑)。しかもライブハウスのスタッフさんが私たちに『あの子、音源持ってきてないから、あなたたちのパソコンで音源焼いてくれない?』って頼んできて、本人は来なかったんです。もちろんお断りしましたけどね。音源持ってこないって、この界隈だとちょくちょくあることなんですよ。それでよくPAさんが怒る(笑)。『持ってくる途中で割れちゃいました』って言い訳しているけど、お前ら素手で音源持って来てるんかい!」
突発性難聴で一度は諦めたバンド活動
“歌うスタッフ”の活動終了後はバンドを始めようと考えている。バンド演奏で歌うのは、眠ヶ原さんの悲願だ。
「高校時代はバンドやっていたんですけど、ライブのとき突発性難聴になってしまって、1カ月弱くらい入院しているんです。一時はお医者さんにも『30%しか戻りませんし、それも諦めた方がいいかもしれない』と補聴器のパンフレットをわたされているんです。幸い大きな病院に移って回復したんですけど、今も耳鳴りが残っている状態ではあります。もし次に症状が出たら、今度は補聴器を覚悟しないといけないかもしれません。だから音楽が好きでも踏み込めないところがあったんです。致し方ないって言ったら悪いけど、それでも私が音楽に触れているための手段がアイドルでした」
眠ヶ原さんは、神妙な面持ちで続ける。
「チヤホヤされたい気持ちはあるけど、それ以上にお客さんと一緒に音楽にぶつかりたいんです。アイドルだとやっぱり、お客さんと一緒に曲にぶつかっていくっていう感覚は足りません。生バンドの熱っていうのが、やっぱり好き。でもバンド始めるのは、これが私だって自信を持って言えるスキルを身に付けてからですけどね。こんな奴の歌でギター弾くのか、ドラム叩くのかって思われたら情けないですし」
仕事やステージに立つことの重みとしっかり向き合っていく眠ヶ原さん。最後にアイドル志望者に伝えたいことは?
「アイドルもメイドも、まず社会的に真っ当な人間であってほしい!(笑)」
★眠ヶ原メタモルさんが所属するBeautyBrilliantAngleは、7月7日に大阪・西九条BRAND NEWにて開催される『進撃のアイドル VOL.117』に出演。同ユニットは、9月末にて活動終了する。眠ヶ原さんの活動情報はTwitterアカウントにて随時発表。
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