「SNAIL RAMPの作り方10:タケムラ、富山に死す」タケムラ アキラ(SNAIL RAMP)『炎上くらいしてみたい』
1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマン・タケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!
前回は富山でやったSNAIL RAMPの2回目のライブについて書いたが、この富山での日々はなかなか楽しかった。当時のギター・太郎の実家に泊めてもらい、結局1週間近く富山に滞在していたが、8月の夏真っ盛りだったのもあり、現地では海、山、川、お祭りと毎日どこかしらに出かけて遊んでいた。
「富山の海に行くならボディボードでもやってみるか」となぜか急に思い立ち、神保町に出かけてボディボード用品1式を買い込んだのもこのときだ。道具1式を揃えたものの、やったことなんて1度もない初心者以前の俺。教えてくれる人もいないため、『ボディボード入門』みたいな本を買っていちから勉強し始めた。
つか何でそんな状態でボディボードをやってみようと思ったのか、当時の俺の精神構造が全く不明なのだが、とにかく行きの車中で時間を見つけては教則本を読み、「あー、こうやって波に乗るのか」「ターンはこうね」と脳内で波に乗りまくった。そして数時間のドライブを経て富山に到着、夏の日射しがバッチバチに照りつけるビーチに俺たちは乗り込んだ。もちろんボードを小脇に抱えてだ。
ウォーミングアップもそこそこに俺はフィンを履き、ボードで入水。ヤバい、「入水」と書くと自殺にしか思えない。しかし薄っぺらなマニュアル本を1回読んだだけでボディボードするとか、恥ずかしすぎてある意味自殺。
ところがね、イメトレってやっぱ大事。薄暗い車内で車酔いと闘いながら熟読したマニュアル本が功を奏し、やったコトないはずなのに乗れちゃうのよ。何に?決まってんだろ!波だよ、波。
1本目は微妙だったが、2本目からはもうバッチリ。4本~5本目からはターンもキメはじめ、「これ超面白いじゃん!」「つか俺、波に乗るセンスあるんじゃないか……?」などと江戸川区在住の田舎者タケムラが、湘南移住を考え出す勢いで調子づく。
「ようしスピン、キメるか」有頂天になりつつあった俺はマニュアル本の中ほどで見た「スピン」のページを思い出した。1回目のトライはうまくいかなかった。2回、3回と俺は諦めずにトライを重ねる。そして……!
5分後、「ボディボードとか超つまんねーな」と悪態つきながら、俺は砂浜に寝っ転がっていた。スピンなんかできない。できるわけないのだ。あれは茅ヶ崎で生まれ茅ヶ崎で育ち、海を見ては「今日の波、いいバイブス来てる……」と呟ける、ローカルの人間にしかできないトリックのはずだ。そうに決まってる。
かくしてボーダーになり損ねた俺は、イジけて川に移動した。富山が、いや日本が誇る名川・黒部川に乗り込んだのだ。何が凄かったんだか、その辺の知識はもう抜け落ちてしまったが、とにかく盲目的に誇ろうじゃないか。凄いぞ、黒部川!
水辺に行くと、まぁ水がきれい。澄み切った水は別世界のようだった。「入ろうぜ!」とハシャいで、またもや入水(NOT 自殺)。「うっ!」、足を踏み入れた瞬間に叫んでしまう位の低水温。むっちゃ冷たい……。なんで真夏に雪解け水が流れてるんだよ!と言いたくなるような冷水。
「これじゃ遊べないですね」とドラムのタクローが呟く。「確かになー」と俺も同調しそうになったが、不意に思いついた。近くに停めた車に戻ると、ボードを小脇に抱え水辺に走った。
「俺、ここでやるわ!」
この日の黒部川、急流とは言わないがザーザーと音を立てて結構な勢いで下流へと流れていってる。「この流れに乗る……!」、ボーダー(本日デビュー)としての血が騒いだ。
小走りで100メートルほど上流に行き、膝上程度の水深がある川の半ばまで入水。おっしゃ!とボディボードをビート板のようにして黒部川の流れに乗り始めた。その強い流れに乗り、俺はどんどん進んでいく! タクローや太郎が「タケちゃん、凄い!」と爆笑している岸辺りで上がろうとしたが、勢いに乗っているのかアッと言う間に通り過ぎた。ここで俺は「あれ?」と思う。岸に寄ろうと懸命にバタ足をしているのだが、川幅もどんどん広がっており一向に岸に近づかない。
スタート地点では膝上程度だった水深も、すでに足が着かない程の深さに……。流れるプールの10倍程度の速さで冷水に流されながら「やってしまった……俺はここで死ぬのか」と悟る25才のタケムラ。
次回は「岸にいた釣り人たち」です。
「スネイルの話しと完全にズレてんじゃねーか!」との皆さまの心の声も聞こえてきそうですが、実際に聞こえ出したら俺はおクスリを飲んだほうがいいですよね。じゃ。