「SNAIL RAMPの作り方11・川でボディボードをやると死にます」タケムラ アキラ(SNAIL RAMP)『炎上くらいしてみたい』
1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマン・タケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!
富山の海でボディボードをやってみた俺。そのあとに行った黒部川でも川上からボディボードで流れに乗り、「お!こりゃおもしろい!」と思ったのも束の間、流れに乗っていたはずが気づくと強い流れに飲み込まれていた。
水深もあり、簡単に足は届かない。岸に向かって泳ごうにもあまりの強い流れに阻まれ、ただただ流されていく。
「こうやって人は死んでいくのか」と身近に死を感じたとき、数10メートル先のエリアの両岸に釣り人たちがいるのが見えた。釣りだろうか、通常よりとても長い竿を振っていた。そして明らかにこちらを見ている。
「助かった!!」
あの長い竿ならば川の中ほどまでも届く、そこに掴まれば引っ張り上げてもらえる……! まるで小説『蜘蛛の糸』だ。地獄に堕ちた罪人の前に垂れてきた、蜘蛛の糸。これに掴まれば助かる! 前方エリアにいる釣り人たちを見やると、急流に流されている俺を完全に認識し、こちらに向かい何か叫んでいる。
「あぁ、これで助かった」
九死に一生を得るとはこういうことだろう。芥川龍之介の『蜘蛛の糸』では、生前に蜘蛛を助けた善行が評価され、蜘蛛の糸が降りてきた。俺、釣り人を助けたことなんてないけどな。でもとにかくこれで助かるのだ。相変わらず流されつつも、叫ぶ釣り人たちの竿に少しでも近づこうとバタ足を強くした。あと20メートルといったところで釣り人たちの叫ぶ声がハッキリと聞こえた。
「てめえ、何やってんだコノヤロウ!!」
俺は我が耳を疑った。死に体ではあったが幻聴が聞こえるほど衰弱はしていない。俺は生への喜びで、元気いっぱいで渾身のバタ足をしているのだ。その対岸の釣り人も怒鳴っている。
「さっさと上がってこい!」
うぅ……、上がれるもんなら上がりたいですよ……。
「魚が逃げんだろーが!」
俺が逃げたいよ……。
「ぶっ殺すぞ、このヤロウ!!」
すでに死にそうなんだよ……。
かくして俺は数人の釣り人たちから全力の罵声を浴び、「ずいません!ゴボォ!ずいまぜん!ゴボゴボォ」と謝りつつも、黒部川のえらく澄んだ水にむせながらさらに流された。
そう、俺はこれまでの人生で釣り人を助けたことなどなかった。だから釣り人も俺を助けなかったのだろう(蜘蛛の糸理論)。
しかし、なぜあのとき釣り人たちに向かって「助けて!」と叫ばなかったのか。本当は絶対に叫ぶべきだったが、その選択肢すらも思い浮かばなかった。どこかに「恥ずかしさ」のような、余計な感情があったのかもしれない。
結局、俺はずいぶんと流された末、ようやく岸にたどり着けた。流れが多少緩やかになったエリアがあり、「ここだ!ここしかない!」と気づき、全力でバタ足をして岸に上がることができた。上がってからもしばらくは突っ伏したままだった。死がチラチラと垣間見えた恐怖感と全力バタ足での疲労感がハンパなかった。
そこからみんながいる上流までの道のりがまた遠かった。裸足でトボトボと、河原や熱せられたアスファルトの上を歩かなければいけなかったが、一番キツかったのはあの釣り人たちのエリアを歩くときだった。何も言われやしなかったが、とにかく人を蔑む目、それは黒部川よりも冷たかった。
そしてようやくみんなのいる地点に辿り着いた俺は「もう帰ろう……」とSNAIL RAMPのリーダーとしての意見を伝え、川の水で冷え切った身体のまま帰路の車に乗り込んだ。
俺はあれ以来、川で泳いだことはない。