「SNAIL RAMPの作り方13・SNAIL RAMP、有名社長と出会う」タケムラ アキラ(SNAIL RAMP)『炎上くらいしてみたい』
1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマン・タケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!
鬼のエンジニア・テツさんのもとで『A PIZZA ALREADY』と『SHE'S SO NICE』の2曲を録った俺たち。かと言ってこの音源に正式なリリース予定があるわけではなかった。この2曲を名刺代わりのデモ音源として使いたかったのだ。
今であればバンドのホームページなどウェブ上に置くか、CD-Rに落とした状態で頒布するだろうが、1995年当時にそんなことをやってるバンドは見たこともなかった。というか、ホームページをもっているインディーズバンドすらほとんどいなかったのが、あの時代。その時代のデモ音源の主流はカセットテープだった。
俺たちも例に漏れず、デモテープを作るべく動いた。まずは安いカセットテープを大量に買ってこなければならない。片面に5分間収録できれば、A面に1曲、B面に1曲の計2の収録が可能。当時は渋谷のペンタか葛西のBEEPをリハスタに使っていたので、その帰りなどに安いカセットテープを求めて電器屋に足を運んだ。
結果、渋谷の宮益坂にあった城南電機が一番安く購入できることが発見。ちなみにこの「宮益坂 城南電機」のワードで「え! 宮路社長の?」とピンとくる人は40代以上だろうか。この宮路社長は名物社長で何かと話題にあがることが多く、テレビ番組などにも頻繁に出ていた有名人。今でいう「ZOZO 前澤社長」や「高須クリニック 高須院長」的な立ち位置の人、とでも説明すればいいのだろうか。
そんな社長のいる城南電機にカセットテープを買いに行った俺たち。1本当たり50円~70円くらいだったろうか、10分テープが山と積まれた店内の一角にきたが店員さんが近くにいない。そこで俺が「すみませーん!」と大きめの声で店員さんを呼ぶと、商品の物陰から小柄な初老の店員が「はいー?」と出てきた。
俺「この10分テープを150本ください」
初老店員「あー、はいはい」
この人店員なのにちょっとぶっきらぼうだなぁと、俺はその顔を見た。
……まさかの宮路社長!
「売り場で接客してんのかよ!」とびっくりしたが、あの宮路社長と会えるとは思っていなかったし、その本人から商品を買うとは思っていなかったので、ちょっとテンションがあがった。
店から出ると俺たちは口々に「宮路いたじゃん!!」とメンバー同士で確かめ合った。「意外にちっちゃかったな~」という印象が強かったが、それもそのはずwikiをみるとその身長は154cm。でもその体からほとばしるパワー感はそれ以上のものがあった。「やっぱり世に出てくる人ってのは、ちょっと違うんだな」そんな感想を抱いたのを覚えている。
俺たちはそれぞれがカセットテープを50本ずつ持って帰り、地獄の手作業ダビングが始まった。まずフィルムパッケージを破いてカセットを取り出し、それを自宅のラジカセで1本1本ダビング。同時にカセットケースにあわせて作った紙ジャケをコピーしておき、丁寧に切り取りはめ込んでいく。
DIY精神といえば聞こえはいいが、その地味で単調な作業はなかなかにシビれるものであった。しかしこの修行的な作業を乗り越え、どうにか150本のデモテープが完成した。問題はこれをどう使うかだ。関係者には配り、ライブでは手売り。しかしこれだけでは拡がりがない。
SNAIL RAMPをまったく知らない人たちにも聴いてもらうには、店に置いてもらうほかはない。当時の店売りデモテープ販売価格相場は500円程度だったが、まったく無名バンドの試聴もできないデモテープに500円を払ってくれる人がいるとは思えなかった。
「どうするかな……」
俺はしばらく考え、ある答えを出した。