「SNAIL RAMPの作り方14・売れるわけなかったはずのデモ」タケムラ アキラ(SNAIL RAMP)『炎上くらいしてみたい』
1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマン・タケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!
問題はこの完成したデモテープをどう頒布していくかだった。CD、レコード店に置いてもらいたいが、まったく無名のSNAIL RAMPの音源を当時のデモテープの相場500円で売ったところで買う人がいるとはとても思えなかった。なんなら店頭で無料配布してもよかったのだが、それだとまったく興味のない人までもが「ま、取りあえずもらっていけばいいか」と雑なピックアップを受け、初回の150本など一瞬にしてなくなってしまうおそれもあった。
そこでこのデモは100円で販売することにした。SNAIL RAMPに興味を持ってくれる人へのハードルは可能な限り下げつつ、興味ない人が無駄にデモテープを消費することのないようにした値付け、これが100円だった。
こうやって文章にすると「タケムラ、何フツーのこと言ってんの?」と思うだろうが、当時は500円で販売か無料配布のほぼ2択でデモテープは頒布されていたのだ。ごくたまに300円で販売しているデモもあったが、それすら稀だった。
だから店に持ち込み「お客さんに100円で売ってください」と告げると、「えー!100円ですかぁ!?」と店員に驚かれるのが常になっていた。それもそのはず、デモを100円で売ったところでお店に入るのは委託分の3割、たった30円なのだ。正直、何本売っても一向にお店の利益になんかならないのだが、インディー系を取り扱うCD、レコード店の素晴らしいところは「100円ですか!?」と驚きはするものの拒否はしないという点。人によってはおもしろがってくれて、レジ前のいいポジションに置いてくれるお店もあった。
しかし、最初に置かせてもらった店は2店のみ。当時下北沢にあったレコード店TIGER HOLEと新宿のVINYLだ。とは言え、その頃はまだ東京で2~3回しかライブをやっておらず、無名中の無名バンドだったSNAIL RAMP。お店に販売委託分として10本ほどテープを置いて帰ろうとした俺に、店員さんは「そんなに置いていかないでください」「5本もあったら充分ですよ」と迷惑そうに言った。
確かにそうだよなーと納得し、5本だけ置いて帰ってきた。まったく無表情の店員さんが言った「売れなかった場合、ご連絡します。引き取りに来ていただくかこちらで処分させていただきます」の言葉が妙にリアルだった。そらそうだよなー、得体の知れないバンドのクソみたいなデモテープなんて誰も買わんわ。ゴミには100円だって出さないのが常識だ。
「5本、これを売り切るまで何ヶ月かかるんだろうか」
「つかお店は、売れない商品に何ヶ月もスペースをさいてくれないだろうな」
俺はガックリと肩を落としながら帰った。そしてその電話は1ヵ月前後で早速かかってきた。「もう引き取りかよ! もうちょっと売ってみてくれよ」と心中で泣きながら電話に出た。
「SNAIL RAMPの竹村さんですか? デモなんですけど」
相変わらず無表情な声だ。
「2週間前から品切れしてるんで、追加納品してください」
「……え?」
「デモ、意外に買われてますよ。10~15本あっても大丈夫です」
うっそーー!!
俺たちの音楽を買ってくれた人たちがいるのか。これは衝撃だった。店員さんが「意外に買われている」と本人に口走ってしまうくらい、予想外にも買ってくれる人がいたということ。ただ、もちろんどんな反応だったかはまったくわからない。興味本位で買っただけで「つまんねーな」と捨てられてしまったかもしれない。それでも「まったく知らない人たちが俺たちの音楽を買ってくれた」という事実はバンドに多大なる勢いを与えてくれた。
ありがたいことにその後もデモテープを買ってくれる人たちは増え、最初は5本の納品だったのが10〜20本、やがては100本単位での納品が必要になった。だが、そのたびに城南電機でテープを買い、自らがダビング、ジャケの封入作業をする作業が追いつかなくなってきて、というかなんだか面倒になってきて「もういいか」となった。
バンドの活動が忙しくなってくると最後は売り上げ金の回収すらも面倒になったので、そのまま未回収になっているものもあるかもしれない。あのデモテープが世に何本出たのかすら資料もないが、おそらく数100本なんだろう。
あれが世に出たSNAIL RAMPの初作品だった。